エコだからという理由だけではまだまだ手を出しにくい
2020年12月にトヨタがフルモデルチェンジした燃料電池車(FCV)、2代目MIRAIのテレビCMを見かける機会が多いと感じる機会が多いような気がしませんか。
ゼロエミッション(有害な排ガスを出さない)で、ロングレンジ(750〜850km)を走れるクルマという点では唯一無二といっていい魅力はありますが、月販目標1000台規模の車種としてトヨタは“推し”過ぎていると感じる向きも少なくないのでは?
なにしろ、車両価格帯は700~800万円というMIRAIは、150万円以上の購入時補助金が期待できますが、それでも環境意識だけで買うにはまだまだ高価。はたしてCMを打つことで販売増につながるかといえば疑問もあります。
無論、トヨタという企業のブランドイメージを高める効果は絶大でしょうから、その意味ではCMなどでアピールする意味があることは間違いありません。
それにしても、欧州では新車販売の25%がBEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)といったプラグイン車両となっていて、燃料電池車はオワコンといったムードも漂っているなか、日本ではトヨタがFCV推しなのに違和感を覚えるという意見を目にすることもあります。はたして、FCVの“ミライ”はあるのでしょうか。
少なくとも、日本においては水素を使って走るクルマの需要は十分にあるといえます。
現政権が2050年のカーボンニュートラル(実質的なCO2排出量ゼロ)を宣言していることは知られていますが、それ以前から経済産業省を中心に日本の未来像として「水素社会」を描いています。たとえば、第5次エネルギー基本計画では、「水素基本戦略などに基づき、脱炭素化したエネルギーとして、水素を運輸のみならず、電力や産業などさまざまな分野における利用を図っていく」ことが示されています。水素社会の核となるFCVには、そもそも日本政府として期待を寄せているという状況もあるのです。
すでに水素社会についてのロードマップは明確に描かれていて、経済産業省によると2030年を水素の大規模商用利用の開始年として位置付け、国内での需要は年間30万トンと想定しているほどです。
30万トンの水素すべてをFCVで使うというわけではなく、発電を含めてさまざまなセクターで利用することを想定しているのですが、仮に2割程度は運輸運送で利用すると仮定すると、その総量は6万トン。MIRAIの水素タンク容量は約5.5kgですから、単純に6万トンの水素すべてをMIRAIが利用したとすると、1000万回以上満タンにすることができます。これまた単純に満充填で800km走ると仮定すれば、年間で80億km以上走行できるだけの水素を10年以上供給できる体制を目指しているともいえます。
2050年に向けて、その水素供給量を増やし、国内におけるクリーンエネルギーの中心的役割を水素が担うというのが日本政府の目論見。市場環境が10年内に、そうして変わると期待できるのであれば、いまのうちからトヨタがFCVでブランディングしておくのは、たしかに納得できるでしょう。