EVに将来性があるのかは疑問
マツダはMX-30 EVを街乗りのセカンドカーとして位置づけたとしている。実際、WLTCモードで256kmの航続距離だと長距離ドライブに駆り出すのはリスキーだ。こうしたモード燃費はエアコンなどの電装品をオフにして計測されるので、真夏や真冬などエアコン使用時の現実的な航続距離としては150km前後だといえるだろう。
MX-30 EVもそうだったが、自動車メーカーがリリースするEVは総じて扱いやすく、乗りやすい。従来のガソリンやディーゼルなどから乗り換えても、違和感なく運転することができ、ハンドリングや実用性も完成度が高い。米・テスラのように新興EVメーカーのような奇を衒った乗り味(強烈なスタート加速性)やギミック(大型モニターや自動ドア等)ではなく、実用的なEVで大幅な普及を目指すのが狙いなのだろう。
だが、レーシングドライバーとしての目線でみると、EVに将来性があるのかは疑問だ。ライトウェイトスポーツに代表されるように、自動車の運動性能を左右する重要な要素は「重さ」だ。いくらフロア下に搭載して重心を下げているとしても、絶対重量が大きすぎたら運動性を損ねてしまう。MX-30 EVも車両重量は1650kgもあり、ガソリンHVモデルの1460kgより200kg近く重くなってしまっている。そのためサスペンションのバネレートが高まり、ゴルゴツと固い乗り味となってしまっているのだ。
マツダはこれまで「ウェルtoホイール」の理念に基づきEVよりディーゼルのほうが総合的に二酸化炭素排出量は少なくて済むと説明してきていた。今回はさらに踏み込んで、素材から発電、開発、製造、使用、廃棄に至までのトータルなライフサイクルアセスメントでの二酸化炭素排出削減を目指している。そのためバッテリーの容量を35.5kwhとしたのは同サイクルでガソリンエンジンのマツダ3と同等の排出量に抑えるためだという。もし高効率なバッテリーが開発されれば、より容量の大きなバッテリーの置換も有りえるのだという。
そこまで考え、計算しているのなら、単に商機にのってEVを投入したのではないという説明にも納得がいく。軽くて高効率なバッテリーが登場すればEVのスポーツ性も高められるが、それでも最高速の低下は否めない。ガソリンターボ車で300km/hを超える超高性能は、たとえ速度無制限の独・アウトバーンであっても無用の性能だといえるが、現状のEVの多くは200km/h以下の速度しかだせない。低回転から最大トルクが引き出せる電動モーターでは変速機やリダクションギアが実用上必要ないためで、モーターの最大回転数が最高速度を決定してしまうのが現状だ。アクセルを踏み込めば誰でも最高性能が引き出せてしまうEVでは、レーシングドライバーとしてスポーツ性を見出だすのが難しく魅力を感じられないのだ。
それでもフォーミュラEは世界選手権戦が組まれ、モータースポーツの最高峰であるF1やル・マンでも電動化はすでに導入されている。F1はトランスミッションも備えスポーツ性を維持している。国内でもEV車によるレースが開催されているが、現状はエコレースというレベルでスポーツ性を高度に競う段階に達してない。自動車メーカーがEVに本格参入するなら、やはりレースフィールドでも競える技術的基盤を醸成していくことも今後は魅力をアピールする上で重要になってくるのではないだろうか。