瞬間認知・直感操作を意識したコクピットを作り込んでいる
塊感のあるモノフォルムだった初代から大きくスタイリングイメージを変えているように、今回のフルモデルチェンジでは単純にヴェゼルを進化させるのではなく、まったく新しいクルマを生み出すことが狙いだ。
そのスタイリングに初代シビックが持っていたシンプルな表現が織り込まれているのは、まさしくヘリテージの持つ信頼性を表現している部分だ。
さらに、ボディに対するタイヤの比率を大きく見せ(撮影車のタイヤサイズは225/50-18)、全高を下げ、テールゲートはファストバックスタイルにすることで美しさを表現した。
そして、気軽な楽しさを示すのが全席で爽快に感じるパッケージングであり、とくに後席の快適性を向上させたことがポイントだと、岡部さんはいう。
岡部さんは初代ヴェゼルにおいて車体設計領域や完成車性能領域のプロジェクトリーダーを務めてきたということもあり、初代ヴェゼルではやりきれなかった部分を熟知している。だからこそ、「後席の乗り心地を改善する必要があることは十分にわかっていました」と考えた。初代ヴェゼルはラゲッジスペース優先で後席は格納性を重視した設計になっていたという。そこで、新型ではリヤシートを新たに設計することで「座面を下げ、背もたれの角度もつけ、セダンライクなポジションとしました。新設定した大きなパノラマルーフの開放感は後席でも十分に味わっていただけます」と岡部さんは自信たっぷりだ。
新しいホンダのクルマ像を模索した新型ヴェゼルでは、このように初代からの改善という視点での進化も遂げている。コクピットでいえば、エアコンの操作パネルを初代のタッチパネル式から物理スイッチタイプに変えたことも、その一例といえるだろう。
「ドライバーが瞬間認知・直感操作できるようなコクピットにすることをテーマとしています。運転の基本となる視界についても考慮しました」という。ドア内張りの上面を延長するとボンネットのキャラクターラインにつながるようにした上で、インパネに一文字のソフトパッドを与えることで、進行方向とロール方向という2つの軸の動きを認知しやすくするといった工夫も、そうした認知や操作をアシストするデザイン表現のひとつだ。
さらにコクピットではドア内張りからインパネを貫くメタル調の加飾が引き締めているのが印象的だ。樹脂にメッキを施した加飾だが、その形状にこだわることで、まるでアルミパイプを曲げたかのような風合いがある。ドアパネル部分の加飾だけでも50回以上も試作したという。同じくディテールでの遊び心の表現としてチェッカーフラッグをイメージさせるシート地が、最上級PLaYグレードに採用されている。
新色のサンドカーキ・パールとブラックの2トーンカラーは「e:HEV PLaY」の専用色として設定されているもので、ホンダの伝統を感じさせる赤・青・白のトリコロールカラーをグリルに入れているという遊び心も、ヘリテージを感じさせ、SUVらしいアクセントになっているのも見逃せない。
コンパクトSUVの代名詞ともいえる「ヴェゼル」という名前は受け継ぎながら、新しい時代ニーズを満たすホンダらしいクルマとしてフルモデルチェンジを果たす新型ヴェゼル。基本コンセプトからディテールアップまで、隙のない作り込みがクオリティ感につながっていることは、その姿を見るだけで感じられるのではないだろうか。