実用車にハイパワーエンジンを載せたモデルが多く登場した
4)ルノー・クリオV6
車体サイズに見合わぬエンジンを搭載したという意味では、たしかにベンツ500Eは強烈だったが、別の意味で強烈だったのがルノー・クリオV6だった。ちなみに、日本ではクリオの車名がホンダの商標登録となっていたため、ルーテシアの車名で販売させたモデルである。
このクリオV6は、FF2ボックスカーのクリオをベース(といってもかなりの部分は専用設計となっているが)に、230馬力の3リッターV6をミッドシップマウントしたモデルで2000年に登場。基本の考え方は、1980年に登場したルノー5ターボとまったく同じと言ってよく、本来後部座席が収まる位置にエンジン/ミッションを搭載したミッドシップ方式のスペシャルカーで、生産台数は1300台強と少なかった。
標準モデルは1.4/1.6リッター、スポーツモデルでも2リッター(この仕様で十分以上に速かったが)という車種構成のクリオに、3リッターV6のミッドシップモデルをつくってしまったわけだから、そのアンバランスさは強烈、大きな商品魅力となっていた。車両性格としては、ルノー5ターボの再来とも言われたが、荒々しかった5ターボに対し、近代的に洗練された高性能ぶりが印象的なモデルだった。
5)フォルクスワーゲン・ゴルフR32
さらに、本来実用的な性格が色濃い2ボックスカーに、上質で大パワー/大トルクのV6エンジンを搭載する余力のモデルも企画された。奇しくも、現在は世界の自動車市場で1、2位を争うフォルクスワーゲン(VW)とトヨタという点は興味深いが、まずわずかに先に登場したのかVWゴルフだった。
2006年、すでにリリースされていた5代目ゴルフに3.2リッターV6の250馬力エンジンを積むR32をリリース。VW独自の4WD方式、4MOTIONとの組み合わせで、全天候型高速クルーザーを目指すモデルとして登場した。
6)トヨタ・ブレイドマスター
一方のトヨタは、カローラのプラットフォームをベースとする2ボックスカーのブレイドに2007年、3.5リッター4バルブDOHC、280馬力の2GR-FE型を搭載するブレイドマスターを追加。ブレイド自体、2.4リッターエンジン(167馬力)を搭載する上級2ボックスカーとして企画された点が大きな特徴だったが、この余力のエンジンに代え3.5リッターV6エンジンを搭載したことで、FF2ボックスのグランドツアラーをつくり上げていた。
ゴルフR32、ブレイドマスターと、格違いの上級エンジンを積んだことで並外れた動力性能、静粛でスムースな走り味を手に入れたが、小気味よく俊敏に走ることを狙ったホットハッチとは異なり、2ボックスカーによるハイウェイグルーザー的な性格が色濃かったため、鮮明なユーザー層が見えにくいという側面も持っていた。
7)日産ジュークR
量産車ではないのだが、イギリス・レイマロック社が限定5台で製作したジュークRは、この格違い車両の最高例と言えるだろう。ジュークの車体に、日産GT-RのVR38DETT型エンジンと6速デュアルクラッチトランスミッション、トランスアクスル方式の4WDシステムを組み合わせて搭載。パワーは545馬力で、世界トップレベルのスーパースポーツカーと較べても遜色のない性能だった。
2010年の発表で2011年に販売されたはずだが、2015年にはパワーアップ版のジュークR2.0が発表された。エンジンパワーが599馬力にまで引き上げられた仕様で価格はおよそ50万ユーロ(6000万円)以上と言われたが、はっきりとしたことはわからない。いずにしても、世界名うてのスーパースポーツカーと同程度の価格設定、性能であることは間違いなさそうなスーパーSUV。なお、レイマロック社と日産の関係は、1990年代中盤、日産がプリメーラでBTCC参戦活動を展開した時からの付き合いとなる技術集団である。