海外の方にとってラリーはお祭りのような感覚
トヨタGAZOOレーシングが活躍するほか、今年11月には「ラリージャパン」も開催されることから、日本でも注目度が高まりつつあるWRC。ご存知のとおり、世界最高峰のラリーシリーズとして抜群の人気を誇るものの、それとは対象的に国内最高峰シリーズの全日本ラリー選手権は国内モータースポーツのなかでもマイナーな存在と言える。
2020年は新型コロナウイルスの影響で全4戦に縮小されたほか、すべてのイベントが無観客で開催されたが、それ以前から決して数多くの観客が詰めかけていたわけではなく、全日本ラリー選手権は一部のコアなファンが観戦する特殊なシリーズとなっているが、なぜ同シリーズはWRCのように盛り上がっていないのだろうか?
まず、世界選手権と全日本選手権は格式が違うほか、マシンもWRCはワークスチームが開発したプトロタイプカーとも言えるWRカーに対して、全日本ラリーは国内チームが開発したプロダクションカーの国内規定モデル、ドライバーの顔ぶれもWRCのワークスドライバーに対して、全日本ラリーは純粋なプロドライバーは数名に止まるなどさまざまな違いがあるが、その前に日本と海外、とくにラリー大国のヨーロッパ諸国とはラリーに対する姿勢が違うように思う。
日本のラリーイベントはモータースポーツ競技に過ぎないが、ヨーロッパ諸国のラリー イベントはモータースポーツ競技と同時に年に一度の祭典として定着している。日本で言えば、博多の祇園山笠、岸和田のだんじり祭りのように、モナコのラリー・モンテカルロ、フィランドのラリー・フィンランドはWRCの一戦であると同時に地域に根付いた“お祭り”で、その言わば“縁日”に参加するように、ワークスドライバーのほか、数多くのプライベーターが“演者”として参戦するほか、その素晴らしい走りを“お祭り”として楽しむために数多くのギャラリーが集まっている。
逆に言えば、地域に根付いたお祭りとして定着しているがゆえに、市街地を封鎖することも可能なのだろう。当然、「ラリー」=「お祭り」であることから、ギャラリーはビールを飲みながら、会場に出展されているブースでご当地グルメを満喫したり、Tシャツやキャップなど記念グッズの購入などショッピングも満喫している。なかには前日の夜からキャンプをしながらバーベキューを楽しんでいる人も少なくはない。
もちろん、競技に関しても観戦ポイントが多く設定されるほか、ドライバーにサインをもらったり、記念撮影ができるエリアおよびタイミングを設けるなどファンサービスも充実している。まさに海外ラリーイベントはエンターテイメント性が高く、競技としてはなく、お祭りとしても定着。しかも、その文化はWRCのみならず、ERC(ヨーロッパラリー選手権)も同様で、チェコを舞台に開催されている「バルムラリー」や過去にWRCの開催実績を持つイタリアの「サンレモラリー」などは、ワークスチームによるWRカーの参戦がないにもかかわらず、WRCを凌駕するほどの観客動員を誇っている。
まさにヨーロッパを中心とする海外のラリーイベントは祭事として定着しているが、日本のラリーイベントは、あくまでもモータースポーツ競技であり、お祭りとしては定着してない。ましてや国内最高峰の全日本ラリー選手権といえども30年前はナイトラリーが主体で、その頃は人知れず開催されていたような状況だった。エンターテイメント性は皆無で、まさに当事者だけのモータースポーツ競技だったが、近年は全日本ラリー選手権もエンターテイメント性の高いイベントも増え、“お祭り”としての文化が育まれつつある。
その代表となるイベントが愛知県新城市を舞台に開催されている「新城ラリー」にほかならない。17回目の開催となった2020年の大会は無観客で開催されたほか、すでに2021年の大会も無観客での開催を発表しているが、2018年の大会には5万2000人の観客動員を記録していた。まさに新城ラリーはシリーズ最大の集客を誇るイベントとして定着しているのだが、なぜ同ラリーは独自の発展を遂げることができたのか?