水素ステーションの数だけが問題じゃない! 燃料電池車の普及に立ちはだかるハードルとは (2/2ページ)

長く大事に乗ると水素タンクの使用期限が切れてしまう

 とはいえ、水素ステーションが増えればすべての課題は解決して、燃料電池車がどんどん増えるかといえば、ほかにも課題はある。

 たとえば量産性だ。2020年12月に登場した2代目MIRAIでは「初代に比べて10倍の生産能力を実現した」というが、それでも年間3万6000台程度の生産規模である。トヨタ・グループ全体の生産台数は2020年で約953万台(これは世界一の数字)となっていることを考えると、MIRAIの生産能力というのは、まったくもって次世代の主流になるとはいえない規模感だ。燃料電池車を普通に見かけるようになるというレベルになるのは、程遠い。

 ほかにも燃料電池車の普及に向けた課題はある。意外に知られていないが、燃料電池車が搭載している高圧水素タンクには公式に定められた寿命「充填可能期限」がある。定期的に検査をしていくという前提で、高圧水素タンクの期限は15年と定められているのだ。たしかに700気圧という信じられないほど高圧で水素を押し込むのであるから、ノーメンテで使いっぱなしにできるような代物でないのは当然だが、車体は使えてもタンクが寿命で廃車にせざるを得ないという状況になる未来がやって来るのは、ほぼ間違いない。

 燃料電池自体も徐々に劣化が進むものであり、けっして永遠に使えるシステムではないが、そうした経年劣化とは異なる高圧タンクに対する法的な規制による寿命が決まっているという状況は、これから普及させていくのであれば何らかの解決策を見出すべきだろう。

 なによりも燃料電池車がカーボンニュートラルに貢献するには、水素の製造自体がカーボンニュートラル化しなければならない。現在は、天然ガスや石油から取り出した水素が流通の中心となっているが、本当に環境モデルとするのであれば、再生可能エネルギーの発電による水分解で製造した水素を中心にすべきであろう。そこに製鉄所などで生まれる副産物としての水素も活用するというのが理想的な未来ではある。

 いまのところはカーボンニュートラル社会に必要になるであろう水素インフラと燃料電池車の製造を応援するフェイズのため、水素の製法まで指摘する声は大きくはないが、本当に地球環境に貢献するためにはクリーンな方法で水素を生み出すところまで配慮してこそ、燃料電池車の普及フェイズがやってくるといえよう。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

愛車
スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
趣味
モトブログを作ること
好きな有名人
菅麻貴子(作詞家)

新着情報