ユーザーの希望を叶えるワンオフ製作などにも対応可能
一方、福祉車両事業は「ライフケアビークル」と呼ばれ、施設での利用から個人まで多彩なベース車両、幅広いニーズに応えるモデルが用意されている。今回、その生産ラインの一部を見学させてもらった。クルマ椅子のまま乗車できるスロープタイプのチェアキャブのリアまわりの架装は、ベース車のリヤフロアを取り外してから専用フロアを溶接……という行程だが、ほぼハンドメイドで職人技の世界だ。一見、手間が掛かる作業に思えるが、少量生産だとこのやり方のほうが効率/コストも優れるそうだ。
さらに驚いたのは架装する部品の多くがほぼ内製なことだ。「ユーザーのニーズにきめ細かく対応するため」というが、これもオーテックジャパンの物づくりの強みのひとつである。それは日産グループ内でも高く評価され、国内最高峰のレースであるスーパーGT用の部品の製作依頼も来るという。
最終工程はベース車に1台1台仕様の異なる専用装備を装着していくが、少人数で組み上げていく様子を見ると、ラインというよりも工房と言ったほうがいいかも!? オーダーメイド事業はモーターショーのショーカー製作から旧車レストア、さらにはオレ様仕様のオーダーメイドモデルへの架装など、「できることはすべてやる」そうだ。今回は架装中のエルグランドのスペシャル仕様「VIP」を見学。このモデルはWebカタログでも見ることができるのでツルシのモデルに見えるのだが、じつはそれは提案のひとつであり、実際はユーザーの要望に合わせて細かい仕様や装備をセレクトできることは、あまり知られていない。
今回は特別に実験部門(温度試験、エンジンベンチ)も見学。エンジンベンチは古くはル・マン24時間/JSPC用のVRH35ZやVRT35、全日本GT選手権/スーパーGT用のRB26やVQ30DETTのエンジン開発で活用され、そこで培われた技術やノウハウがファクトリーカスタムにフィードバックされている。最近では30周年記念のスぺシャルモデル「マーチ・ボレロA30」の専用エンジンの開発で使われたそうだ。見学時には「勉強のため」とスカイライン400R用のVR30DDTTが設置されていたが、何とも怪しい(笑)。
このようにオーテックジャパンは量産車では難しいニーズに対して小まわりが効き、スピーディに対応できる有能な少数精鋭部隊である。まさに日産自動車にとって無くてはならない重要な“黒子”と言える存在だ。