「嫁ストップ」はコロナ禍以前からも存在していた
新型コロナウイルス感染拡大前のころ、旅客運送業界では“嫁ストップ”というものがしばしば話題となった。いまとは異なり、海外から大勢の外国人が訪日し、国内観光を楽しんだり、長距離バスが網の目のように全国に張り巡らされ運行され、多くの人が活発に国内移動をしていたので、貸切バス業界は多忙を極めていた。そのためつねに各事業者は運転士募集の求人活動を展開、仕事が多忙ということもあり事業者によってはかなりの高給となっていた。
そのため、異業種からの転職を希望する男性の配偶者が転職を阻むことを“嫁ストップ”と呼んでいた。収入の高さは魅力的だが、長距離や長時間拘束によるバスの運転は事故などのリスクが高く心配だというのが、ストップをかける理由であった。そのため、大手を中心に積極的に就労環境の改善を行う事業者も目立っていた。
そのような、貸切バス業界が盛り上がっていた時期の記憶が遠のきはじめていた最近、久しぶりに“嫁ストップ”のような話を聞くことができた。筆者は自宅最寄り駅から、取材も兼ねてタクシーをよく利用して帰宅する。東京のような大都会でもなく、ターミナル駅でもないので、一部の運転士とは顔なじみとなり、目的地を伝えなくでも「あそこだよね」と連れて行ってもらえることも多い。
そのようななか、ある日も駅前からタクシーに乗ったのだが、しばらくして運転士が「タクシー乗るのは2週間ぶりなんだよ」と話しかけてくれた。東京隣接県なので緊急事態宣言が発出され、繁華街の飲食店が夜8時で店を締めたりしているので、タクシーの稼働台数を減らしたその影響なのかなと思っていたら、「家族がさ、コロナが危ない(感染する)から、タクシーに乗るのをやめてくれって言うんだよ」と、その理由を話してくれた。
緊急事態宣言が発出され、夜間の酔客などの利用がほぼ期待できなくなったなか、平日午前中のお年寄りの病院への通院需要も、「コロナが怖くて病院へ行くお年寄りが減ったようで、無線配車がめっきり減った」との話も聞く。そのなか、いざハンドルを握って街を流しても、1回の出番での売り上げが1万円だった(運転士の取り分は5000円ほど)という話も聞いている。