潔白を証明するどころか自分に不利な証拠となる可能性も……
煽り運転による危険運転行為が引き起こした悲惨な事故が全国的に報じられて以後、ドライブレコーダーに注目が集まり、その重要性が見直されている。もともとは防犯目的で駐車中のクルマに傷を付ける迷惑行為や、車上荒らしなどの犯罪行為を抑止するのを主目的としていた。また停車している車に自ら体当たりし、路面に倒れて接触事故の被害者を装う、いわゆる「当たり屋」行為対策にも有効だった。だが、交通事故の原因解析にも役立つことが実証されはじめ、一気に重要装備として注目されるようになったわけだ。
まだ標準装備しているクルマはほとんどないが、新車納車時にディーラーで取り付けを依頼するケースが増えている。カーショップへ行けば自分で簡単に設置できる簡易タイプのものも安価で入手できる。また最新式では前後はもちろん360度全方位で監視できる高性能なものも登場している。
しかし、ドライブレコーダーは重要な証言者である一方で、視点を間違えると正反対の現実を見せてしまうことも起こりうる。たとえば、最高速度120km/hの高速道路の追い越し車線を80km/h前後で走行しているクルマに、制限速度一杯に120km/hで近接してくるクルマがあるとしよう。両車の速度差は40km/h以上になり、毎秒11mで近接することになる。前走車から見れば急激に後続車が近づき煽られているような印象を受ける。
この両車が前後撮影可能なドライブレコーダーを装備していたとすると、前走車のドライブレコーダーには後方から急接近してくる車両が録画されていて第三者的な判断としては後方車が煽った印象を持つことになるだろう。後方車両のドライブレコーダーには前走車に追いついていく画像が残され、前走車のドライバーの証言を裏付けるような証拠となってしまう。
80km/hで走行するのは違反ではないが、追い越し車線を追い越す目的以外でだらだらと走行するのは違反行為だ。後続車は制限速度内で走行しており、前走車を追い越す意図で近接していたなら前走車は走行車線に進路変更し、後続車に進路を譲るべきだった。この両車が互いの立場を主張しあい、警察官や検察官など第三者がドライブレコーダーを元に判断したら、後方車が前走車を煽ったように判断されかねないのだ。
ドライブレコーダーの普及でこうした事案は激増している。お互いがドライブレコーダーを装着していて、双方とも被害者意識を持っているケースが多く、トラブルとなった場合に両方のドライバーが警察に通報し、自己が被害者だとドライブレコーダーの録画映像を示して主張するため現場で判断することが難しくなり、裁判に発展しかねない。ドライブレコーダーを装着したことで、つねに自分の側に有利な証人を同乗させているかのごとく錯覚し、放漫な運転をしてしまうドライバーも増えているといえるのだ。そうした事案を無くし、より正確に事実を把握するためにはどうしたらいいのだろうか。