ホンダは国産ADASの先駆者として軽自動車にも導入を進めている
ホンダのTJPが動作する条件は自動車専用道路限定であり、作動速度も約50km/h以下に限定される(起動は約30km/h未満)。すなわち利用できるのは渋滞時のみとなっている。自動運転という言葉に期待しているユーザーとしては肩透かしをくらったような気分になるかもしれないが、クルマが走行中にほかの行為をできるというのは、いわゆる「自動運転」という言葉に期待する完全にクルマに運転を任せられる時代に一歩近づいたといえるのではないだろうか。
実際、TJPのプロトタイプは2017年にメディア向けに公開されており、その段階で渋滞時に自動運転レベル3の要件を満たしている様子は確認できた。筆者もそのプロトタイプにテストコース内で試乗したが、そのときの印象ではすぐにでも市販可能といえるほどの完成度を示していたと記憶している。
しかし、実際に公道で自動運転レベル3を走らせるにはテストコースでの開発だけでは不十分で、その後ホンダは自動運転レベル3のテストカーを公道で走らせ、さまざまなデータをとっている。今回の世界初の自動運転レベル3市販化というのは、まさに満を持してなのである。
前述したようにホンダには自動運転レベル2の要件を満たしたホンダセンシングというADAS機能がある。そこにハンズオフを加えるだけであれば、もっと簡単に実装することができたはずだ。しかし、あえてホンダが自動運転レベル3にこだわったのには、いくつかの理由があるだろう。
その一つは自動運転技術に関するパイオニアとしての自負だろう。意外かもしれないが、レーダーを使って先行車を検知する「追突軽減ブレーキ」を世界で初めて市販車に搭載したのはホンダなのだ。その名称は、いまもつづく「CMBS(Collision Mitigation Braking System)」というもので、そのデビューは2003年6月であった。
現在、ホンダセンシングについては、機能を削ることなく軽自動車にも標準装備化を進めるほどADASには力を入れているのがホンダというメーカーだ。ドライバー監視システムを載せれば、ホンダセンシングの進化版としてハンズオフ可能な自動運転レベル2を生み出すことはできるだろうが、文字どおりのレベルアップを果たすことが、ホンダの安全意識としては必要な進化だったといえる。
もう一つの理由が、延期されてしまった東京オリンピック・パラリンピックにあわせて国産自動運転テクノロジーを世界にアピールしようという国策的な狙いだ。すでに2020年4月には自動運転レベル3の実装に対応すべく保安基準を改正しているなど、国土交通省や経済産業省を中心に、日本の自動車産業の競争力を高めるイノベーションとして自動運転は重要なものとして位置付けられている。どんな根拠か不明だが、日本の自動運転は海外より規制が厳しいという声もあるが、実用化に向けた実際の動きをみると、むしろ世界的にみても進んでいるといえる。
じつは、ホンダの自動運転レベル3の実用化についても、ホンダ自身が発表した内容よりも、国土交通省の発表資料のほうが詳細だったりするほどで、自動車メーカーより行政府のほうが力を入れていることは明らかだ。そうした国策的な背景も、世界初の型式指定という偉業につながったといえる。もっともホンダの体質からして国策にあわせたというよりは、自動運転レベル3の実用化にとってハードルとなるさまざまな整備状況が進んできたことが、ホンダの思惑にとって渡りに船となったのだろう。
世界初の自動運転レベル3テクノロジー「トラフィックジャムパイロット」を搭載した市販車の発売は2020年度内とアナウンスされている。搭載されるモデルはホンダのフラッグシップであるレジェンド、その自動運転ぶりを公道で確認する日が楽しみだ。