この記事をまとめると
■GRヤリスの廉価グレードについて考察している
■WRCに参戦する台数規定を満たすために用意した
■結果的にはルールが変更され必要がなくなった
WRC参戦のための条件をクリアするため
近年のトヨタはスポーツカーの開発に並々ならぬ情熱を捧げている。ただし、伝統の名前を復活させたスープラ、同じく伝説的なモデルであるレビン/トレノの型式に由来する名前で誕生した86ともに、他社とのコラボレーションによって生まれたモデルであり、メカニズムの基本は他社のそれを利用していた。
そこでトヨタ・スポーツカーの真打として登場したのが、トヨタの純粋なスポーツカーと豊田章男社長も語る「GRヤリス」だ。
世界ラリー選手権(WRC)を戦うWRカーとはエンジン気筒数が異なるなど技術的な関連性はないが、同等排気量の1.6リッターターボを積み、トランスミッションは6速MT、GR-FOURと名付けられた4WD駆動システムとの組み合わせは、まさにチャンピオンマシン直系といったイメージで、たしかにトヨタ純血なスポーツカーとして正しい姿がここにあると感じてしまう。クーペ的なフォルム、カーボンルーフといった要素もピュアスポーツカーらしい。
とはいえ、GRヤリスには1.5リッターNAエンジンにCVTを組み合わせたFFの「RS」グレードも用意されている。WRC直系の本格スポーツカーというのであれば、廉価版と感じてしまうグレードをわざわざ用意することはブランディング的にはマイナスに見えるし、RSグレードの価格は265万円と、けっしてリーズナブルなわけではない。ほぼ同じパワートレインのヤリスであれば160万円程度から売られているのだ。パフォーマンスの面だけでいえば、GRヤリスRSを選ぶのは合理的ではないようにも思える。
もっとも、廉価グレードといっても前述したカーボンルーフやアルミ製エンジンフードなどは上級グレードと共通で、そのボディに価値を見出すのだとすれば5ドアのヤリスに対して100万円のエクストラコストというのは、かえってリーズナブルに感じるのも事実だ。
それはさておき、GRヤリスが4WDターボだけでなく、NA・FFもラインアップしているのはWRCのレギュレーション(規則)との関係というのが通説だ。
2022年から新レギュレーションに変わってしまうのだが、少なくとも現行レギュレーションにおいては、WRカーのベースとして認められるためのホモロゲーションを取得するには、連続した12カ月間に2500台以上、車種全体で2万5000台以上という生産台数が必要となっている。GRヤリスは将来のWRC参戦モデルとして開発されている部分もあり、この台数基準を満たすには4WDターボだけでは難しいのも事実。そうであれば、2万5000台以上の販売を確実にクリアできるように廉価グレードを用意するのは当然の判断だ。