大企業の社長の枠を超えた「注目度」と「実績」! 「豊田章男」が凄いワケ (2/2ページ)

自動車メーカーからモビリティカンパニーへ

 そうしてドライビングの楽しさを自ら体現する存在となっている豊田章男氏だが、古い価値観にとらわれているわけではない。かつては自動運転について否定的な発言をすることもあったが、パラリンピックと深く関わるようになり、障がい者の移動をサポートするものとして自動運転技術を進化させることの重要性を語るようになった。

 その結果として、現在は「ウーブン」ブランドを持って、AI(人工知能)の開発に投資するようになった。しかも「ウーブン」ブランドが手掛けるAIのターゲットは自動運転車だけえではない。東富士に「ウーブン」シティなる実験都市をつくり、生活全般をAIがサポートする社会システムを構築しようとしている。2018年に、トヨタを自動車メーカーからモビリティ・カンパニーに変身させようと宣言した豊田章男氏は、モビリティからの卒業も目指しているようだ。

 思えば、自動織機で会社を大きくした佐吉氏、自動車事業に参画した喜一郎氏、住宅事業を興した章一郎氏と、豊田家は新規事業を創業することが家訓となっている。そして章男氏は社会インフラにもなり得るAI事業を興した。そこには個人として出資もするというほどだ。カーガイだからクルマだけにしか興味がないというわけではない。広い視野を持って、未来を見ることもできる人物なのである。

 そもそも、いまやトヨタのモータースポーツ・ブランドとなったGAZOOも、豊田章男氏が社内ベンチャーとして起こした中古車検索のインターネットサービスにルーツを持つ名前だ。画像で検索できるサービスということで「がぞう」をもじった「GAZOO」という名前で始めたサービスが、前述したニュルブルクリンク耐久でGAZOO Racingとなり、それがいまやワークス活動を示す名前になった。豊田章男氏にとってインターネットを使ったサービスは、それほど思い入れのあるものなのだ。そうした背景もあって、豊田章男氏はIoTやMaaSを理解する姿勢が強いという話も聞こえてくる。

 カーガイとして技術や見る目を磨き続け、本業においてしっかりとしたリーダーシップを発揮しつつ、新事業にも積極的で、柔軟性もあわせ持つとなれば、まさに完璧ともいえる。ただし心配がないわけではない。

 前述のようにトヨタというブランドにおいて、豊田章男氏という存在は欠かせないピースとなっているが、ブランド規模を考えるとそうした属人的な部分があるというのは、ある種のカンパニーリスクといえる。また、冒頭に記したように「創業家のお坊ちゃん」と見られているということは、豊田章男氏のコンプレックスでもあったろうが、すでに創業家という枠を超えた名経営者という評価が高まっている。そうして豊田章男氏の原動力でもあったであろうコンプレックスを克服したのちに、どのような変わっていくのかは非常に気にかかるところだ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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