カーボンニュートラルに向けた新たな動きもみられる
10月:ホンダがF1参戦終了を発表したが……
10月2日、ホンダが突如「F1参戦終了」を発表しました。ホンダのF1活動というのは、だいたい10年程度で区切りをつけるという歴史をたどってきているので、このタイミングでの参戦終了にそれほど驚きはありませんでした。F1にかけていたリソースを「2050年のカーボンニュートラル実現」に向けるというのも、本田宗一郎氏が社長だった時代の第一期F1活動の終了目的がCVCCという環境エンジンの開発だったことにも通じるという意味ではホンダの伝統芸とも感じます。
それにしてもホンダが2050年のカーボンニュートラルを目指すと発表したのちに、菅首相が所信表明演説で同じ目標を掲げるとは予想の範囲外で、そちらのほうが驚きでした。そして、個人的には参戦終了の発表があった同日の午前中にホンダの電気自動車Honda eの試乗をしていたという偶然も重なって、自動車メーカーにおける従来型モータースポーツ全般の価値が下がっていくのを感じた日になりました。カーボンニュートラル、ゼロエミッションといった要素が不可避になっている未来に向けて、いつまでも内燃機関にこだわっていることは逆にブランド価値を下げるのではないかとも思ったのです。事実、電気自動車専業メーカーであるテスラの時価総額がトヨタを超えているというのは社会の期待があるからといえます。
また、リヤ駆動の電気自動車であるHonda eの走りが想像以上にスポーティで、走りを楽しむという点においては内燃機関にこだわる必要がないということを実感したことも、F1参戦終了を自然に受け止められた理由のひとつだったかもしれません。100年に一度という変革を一日で感じることができたのが10月2日だったのです。
11月:マツダの直列6気筒エンジンはどうなる?
こうして電動化へ向かっているわけですが、内燃機関にこだわっているのがマツダです。11月に実施した2021年3月期の第2四半期決算発表のプレゼンテーションにおいて、開発中という直列6気筒エンジンの全景とヘッドの画像を公開したのです。詳細は未公表となっていますが、ガソリン仕様とディーゼル仕様の6気筒エンジンが用意され、それぞれSUVへの搭載を前提に4WDにも対応する設計となっているようです(画像ではオイルパンを貫通する駆動系らしきものが見えます)。
それにしても、これほど急速に電動化、それもゼロエミッション化が進んでいるタイミングで、6気筒エンジンの新設を発表するというのは時代に逆行しているようにも思えます。とはいえ、マツダの「2%戦略(シェア2%でロイヤリティの高いユーザーを取り込む戦略)」からすると、逆張りともいえるタイミングでの6気筒エンジンを発表することは、それがブランド価値を高めるといえるのかもしれません。果たして、6気筒エンジンによってマツダ・ブランドはどうなっていくのか。要注目です。
12月:三菱エクリプスクロスに見る電動化時代の走り
7月のトピックスとして「e-4ORCE」を新採用する日産の電気自動車「アリア」を取り上げました。前後独立モーターによる姿勢コントロールも気になるポイントのひとつなのですが、まさか2020年内に前後独立モーターによる気持ちいいハンドリングを味わうことができるとは思ってもいませんでした。それが12月に発売された三菱自動車の新型エクリプスクロスです。
フロントマスクやテールゲートを一新するほどのビッグマイナーチェンジではアウトランダー譲りのPHEVシステムが採用されたことが話題の中心ですが、そのシステムは2.4リッターエンジンと発電用モーター、前後独立モーター(前60kW後70kW)を組み合わせたという内容になっています。このパワートレインは高速走行以外モーターだけで駆動するというフル電動といえるシステムとなっています。
そして、新型エクリプスクロスでは、その駆動力を制御することで走りを変化させる「S-AWC」を進化させたことが注目点。もっともスポーティな走りが楽しめる「ターマック」モードでは、驚くほどドライバーの意思に忠実なライントレース性能を見せてくれたのです。2tに迫ろうという重量級ボディが左右にヒラヒラと動くさまは、SUVという外観から想像できないものでした。たしかに歴代ランサーエボリューションで培ってきたノウハウが活かされていることを感じます。
しかも、電子制御によってクルマが勝手に動いているのではなく、あくまでもドライバーのイメージどおりに走るというのがポイントで、あくまでもドライバーファーストな作り込みは電動化時代であってもメーカーの知見が生きる部分であって、電気自動車だからだれでも簡単につくれるなんてことはないと実感することもできたのです。
長くなってしまいましたが、以上2020年下半期の記憶に残ったニュースを月ごとに紹介しました。CO2削減効果へ疑問を投げかけるなど、エンジン車が消えてしまうことへあらがう動きもありますが、事実として世界的なトレンドとしての電動化はますます加速するでしょう。しかし、それでもクルマを操り楽しみは存在すると実感できたのは、2020年下半期の貴重な体験だったといえそうです。自動車業界の変革が、ユーザーファーストで進化していくことに大いに期待しましょう。