困ったときに頼れる太客の存在が大きい
もう一点はスズキの“トヨタ的”ともいえる販売手法があるようだ。新型コロナウイルス感染拡大以降も、新車販売は大きな悪影響を受けず、いまでは例年以上に新車を売りまくるディーラーも存在する。しかし、黙って店頭でお客がくるのを待っていただけでは売れない。2020年後半にワゴンRからワゴンRへ新車を入れ替えたA氏によると、「はじめは新車にするつもりなどはありませんでした。定期点検で店を訪れると担当セールスマンが新車への乗りかえを勧めてきました。サポカー補助金が使えるというだけではなく、総額で25万円も値引きしてもらえるとのことで新車にしました」と語ってくれた。
「登録車販売では“トヨタ一強”と言われていますが、定期点検などで訪店して作業が終わるのを待っているお客に、下取り査定額の入った、よりリアルな見積りを見せています。そして初回車検も迎えていない高年式車オーナーでも、“いける”と思ったお客には片っ端から新車への乗り換えを勧めるセールスマンが、コロナ禍でも新車を売りまくっているようです。何が言いたいかというと、トヨタやスズキは困ったときに泣きつける、信頼関係が構築できている“太客”を多く持っており、それがコロナ禍でも勢いを衰えさせないようです」とのこと。
10月から販売の勢いが盛り返したダイハツだが、軽四輪乗用車販売台数でみると、2020年1月から11月までの累計販売台数では、9271台の差をつけてスズキが依然としてトップとなっている。軽四輪貨物では11月までの累計販売台数では1万9047台という圧倒的な差をつけてダイハツがトップとなっている。つまり、2020暦年締め年間販売台数でダイハツがトップとなった場合は、軽四輪貨物の販売が大きく貢献したことになるのである。
ダイハツに限らず、軽自動車の販売競争では自社届け出が活発に行われ、その副産物として届け出済み未使用中古車が市場に溢れる。私が定点観測している専門店ではスズキも目立つが、それに増してタントやムーヴキャンバス、そしてハイゼットカーゴやトラックも目立つ。総力戦での自社届け出合戦でも、ダイハツの“ナンバー1への執念”に、スズキがひるんでしまったのかもしれない。
スズキもこのまま引き下がるとは思えない。年明けからは2020事業年度末セールが始まるので、事業年度末締めでのブランド別販売ナンバー1をめざし、ダイハツと激しいデッドヒートを展開することは十分考えられる。だが、スズキは最近新型ソリオをデビューさせており、登録車販売に熱心になっているので(軽自動車よりは儲かる)、3位のホンダがすぐ後ろに迫らない範囲で、軽自動車販売競争には手は抜かないとしても、ダイハツとデッドヒートを限界まで繰り広げてはこないのではないかとも考えられる。