SUV化で販売は回復するがそれはもはや「クラウン」ではない
3つ目は直近の話だが、2020年5月以降、トヨタの全店が全車を売る体制に移行したことだ。従来のクラウンはトヨタ店の専売で、全国に約900店舗を展開していた。それが今は全国の4600店舗が扱う。販路が拡張したから、クラウンが売れ行きを伸ばす可能性もあったが、実際はアルファードやハリアーといったほかの上級トヨタ車にユーザーを奪われた。今ではヴェルファイアも、姉妹車のアルファードと比べて、12%程度しか売れていない。
クラウンを扱うトヨタ店では「以前ならお客様がトヨペット店のアルファードやハリアーに乗り替えようとした場合、(ほかの店舗にユーザーを奪われるのは困るから)いろいろな条件を出して引き止めた。しかし今はご希望に沿ってアルファードやハリアーを販売できる」という。全店が全車を扱う体制では、トヨタ車同士の販売格差が広がり、クラウンは顧客を奪われる立場になった。
それならクラウンを廃止する選択もあるが、60年以上の伝統ある車種だから、廃止は避けたい。その結果、人気カテゴリーのSUVに方向転換するアイディアが生まれた。
ハリアーよりもさらに上級なSUVを開発すれば、売れ行きはある程度伸びるだろうが、それはもはやクラウンではない。セダンは全高が1500mm以下に抑えられ、後席とトランクスペースの間には隔壁もある。セダンのボディは低重心と高剛性を併せ持つことで、高重心のSUVよりも左右に振られにくく、前後輪の接地性も優れている。
この優れた走行安定性と乗り心地の両立、いい換えれば安心と快適がセダンの特徴だ。長年にわたって築かれたクラウンの価値も、セダンであることを前提に成立している。それを放棄してSUVに切り替えても「クラウンの価値」は見い出せない。
現行クラウンは、先に述べたとおり、過去に見られなかった思い切った試みをたくさん行った。未曾有のことだから、売れ行きが下がることも考えられる。諦めるのはまだ早く、ロイヤルサルーンの復活など必要な軌道修正を行い、もう少しセダンで頑張ってみてはどうだろう。クラウンはそれだけの価値を備える日本車の主役だ。