配線を傷つけてしまうと修理は大変……
20世紀のチューニングでは多くのクルマ好きが楽しんでいたハンドル交換も、最近では少数派となっている印象がある。たしかにステアリングホイールを交換してグリップ感の違いを味わうカスタマイズは存在しているが、SRSエアバッグを活かすと考えると見た目のイメージがさほど変わらないことから、カスタムしても目立たないのかもしれない。むしろハンドルカバーのほうが代わり映えを実感できるかもしれない。また、最近はステアリングスポーク部分にオーディオやACCなどのスイッチが増えたこともステアリングホイールそのものを交換するのを躊躇させる理由になっている。
いずれにしても、昨今のハンドル(ステアリングホイール)は電装部品と言いたくなるほど多くのスイッチがついている。とはいえ、ハンドルというのは日常的にクルクルと回すものであり、これだけの多機能を実現するための配線をどうやって処理しているのか気になってくるのではないだろうか。そもそもSRSエアバッグを作動させるのにも電気信号を使っている。エアバッグ登場以前はホーンを鳴らすことができればよかったので、接点に対して丸い板を当てておくという非常にシンプルな構造だったが、そうはいかない。
では、SRSエアバッグ登場以降のハンドル配線はどのようになっているのだろうか。
結論を言えば「スパイラルケーブル」というものを使っている。これはリールに平型ケーブルを巻き付けた構造になっていて、ハンドル操作に応じてケーブルを送りだしたり、引き込んだりすることで、複数の配線を切れないようにするという構造になっている。知ってしまえば「なーんだ」と思うだろう、わりと単純な構造によって解決しているのだった。
では、スパイラルケーブルが切れてしまうことはないのかといえば、じつはある。いや、通常の使い方をしているぶんには問題が起きることはないのだが、なんらかの修理のためなどにハンドルを外して、ふたたび装着するときにステアリングとスパイラルケーブルの中心がズレてしまうと、左右どちらかまでハンドルを目いっぱい切ったときにケーブルを引っ張ってしまい中で断線してしまうことがある。
また、フロントタイヤを縁石などにあてて、サスペンションを構成するパーツが曲がってしまったときに、タイロッドエンドの調整だけでセンターを出そうとするなど無理な修理をするとスパイラルケーブルに負担がかかってしまい、同様のトラブルにつながることがあるという。
そしてケーブルが断線すると、通常はSRSエアバッグのワーニングランプが点灯してしまう。事故の際にエアバッグが開かないことになるし、ワーニングランプが点いた状態では車検も通らない。そのためハンドルまわりをバラして、スパイラルケーブルを新品交換する必要に迫られる。けっして安いパーツではなく、操舵系というのはプロに任せないと心配な部分なので、トータルでの修理代もそれなりにかかってしまう。
いずれにしても、そうしたパーツがハンドルの部分には使われているということを知っておけば、無用なトラブルを避けることができるだろう。