今までに乗った市販車でもっとも速く130Rを抜けることができた
ペースがペースだから、トラクションコントロール系の安全デバイスはオールカットすることで挑んでいた。安全性を優先するあまり、必要以上にパワーを絞られたり減速させられてはたまらないからだ。だが、安全デバイスをカットしたシビック・タイプRは、不用意なアクセルオンでは強烈なアンダーステアが顔を出す。ヘアピン立ち上がりでスロットルペダルを床踏みしようものなら、フロントタイヤは激しく空転し、走行ラインが車幅一台分もずれるのだ。
そう、シビック・タイプRはFF駆動であり、モンスターなのである。
アダプティブサスペンションは、初期では優しく路面を舐める。だが、激しい横Gが加わると、剛性感を高めてロールに身構える。タイヤは、公道走行が許されていることすら不思議なほどのハイグリップタイプだった。ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2である。だというのに、姿勢がグラグラすることなく、限界域でも安定したことには驚かされた。
難所130Rを目前にしたブレーキングでは、やや姿勢が乱れることがある。だが、空力に優れたフロントがグリップを見放すことはなく、それでいてテールが暴れることがない。登録ナンバーのついたモデルでこんなに速く130Rを抜けたのは、僕の人生で初めてである。
じつは、シビック・タイプRでもっとも興味か引きつけられたパーツがある。それが、シフトノブである。アルミ削り出しのそれは、手に馴染むような絶妙な形状だったのだ。これまでの歴代のタイプRと雰囲気は酷似している。だが、形状にはさらに熟成が図られており、一層の改善がなされているのだ。
「こんなところまでわざわざ……」。
正直にいえば、そんな気持ちである。だが、こんなところまでのこだわりがFF最速マシンを成立させる理由なのである。
シフトノブの形状が掌にしっとりとなじむことで、電撃シフトを正確にこなすことが可能になった。こんなわずかなことへのこだわりが、シビック・タイプRをFF世界最速マシンに昇華させているのだ。