過激な改造車は車検や法規の厳しさによって日常から消えていった
ファッションに流行があるように、クルマのカスタマイズにも流行り廃りがある。たとえばいまなら、SUVやワンボックスをベースに車高を上げたキャンプ仕様、シティオフローダー仕様あたりだろうか。またローダウン系であれば、程よい低車高に小振りなアンダーフラップを付けた街乗りスタイルが人気。若手のクルマ離れが進み、カスタムカー自体が少なくなっているものの、イジる人はイジっている。
とはいえ昔に比べると派手な仕様は激減した。環境性能が重視され、車検や法規もシビアになり、世間の目も厳しくなった。もはやこの令和の日常の中で、道交法違反上等の尖った改造車は生きていけないのだ(昔の改造車が全部非合法だったわけではない)。自然とカスタマイズの流行もおとなしい方向へと移り変わり、肩肘張らずにサラッと乗れるスタイルが主流になってきた。
そんないまだからこそ、消えてしまったかつてのカスタムカーを振り返ってみると衝撃的。昭和世代ならそうでもないかもだが、免許取りたてくらいの若手からすると相当なカルチャーショックだろう。今回はそうした往年のカスタムカーを紹介していく。なお、筆者の個人的意見および偏見も多数含まれるがご容赦願いたい。
1)街道レーサー
まず昭和の改造車のイメージといえば、「街道レーサー」ではないだろうか。1970~80年代ごろに流行したスタイルで、基本的には当時のレース車両をモチーフにしたカスタマイズ。1971~89年まで開催され、星野一義や中嶋悟も活躍した「富士グランチャンピオンレース」の影響が大きかったことから、「グラチャン族」とも呼ばれた。
スタイルの特徴はチンスポ(フロントスポイラー)や大型のワークスフェンダー、板ッパネ(リヤウイング)などが装着されていたこと。足元には深リム14インチホイールに引っ張りタイヤを合わせ、車高はもちろんダウン。見た目のみならず、各種チューンで暴力的にパワーアップしている車両もよく見られた。車種は日産のハコスカ・ケンメリ・ジャパンなどのスカイライン系、S30フェアレディZ、「ブタ目」のトヨタ・マークⅡ&チェイサー、サバンナRX-7などなど。
またこの街道レーサーをよりアグレッシブに進化させた「チバラギ仕様」も有名。前述の富士グランチャンピオンレースのサポートレース(シルエットフォーミュラ)に出ていた車両がモチーフとされているが、果たして当時そんなことを考えてイジっていた人はいただろうか。いわゆる「竹ヤリ出っ歯」の族車スタイルなのだ。
クルマによってはマフラーがボンネットから触覚のように飛び出していたり、巨大チリトリのようなチンスポや滑り台のようなウイングが付いていたりした。カラーリングも原色系が多くとにかく派手だった。集団で暴走行為をするオーナーも多かったため、取り締まりのターゲットにされ、徐々に姿を消していった。
2)VIPカー
暴走族的な過激な改造があった一方で、バブル時代には高級セダンをベースにした文化も花開く。「VIPカー」の誕生だ。なぜVIPと呼ぶかは諸説あるが、日産のY31セドリック・グロリアに設定されていた「ブロアムVIP」というグレードがきっかけだったというのが有力。関西でY31ブロアムVIPに乗るオーナーたちが集まって「VIPカンパニー」というチームを作り、そこからVIPカーと呼ばれるようになったとか。
節操なくイジり倒すというよりは、ベース車の雰囲気を残したカスタマイズが特徴。このころのビッグセダンはノーマルでも近寄りがたいオーラを放っていた。乗るのは会社の社長か政治家かその筋の人といったイメージもあったわけだが、それをさらに怪しくイカツくする方向といえばいいか。何百万円もするのに容赦なく改造してしまうところにも醍醐味があった。
初期の頃の車種は、トヨタ初代セルシオ&日産シーマ&トヨタのクラウンマジェスタ、13クラウン、前述の31セド・グロ、インフィニティQ45など。当時はまだエアロパーツのラインアップも少なく、たとえば初代シーマなら、インパルエアロに5本スポークかメッシュの深リムを履かせて程よくローダウン、といった感じで意外とシンプルだった。こうしたスタイルは、いまは「元祖仕様」と呼ばれたりしている。
その後、時を経るにつれ、スポーツ系、内巻きシンプル系、ユーロチューナー系、GTカー系、スーパーカー系…etc、VIPカーにも多種多様な流行が生まれては消えていった。いや、いまでもVIPカーは数多く存在するが、さすがに2000年代の頃のような勢いはない。そもそもベースになる車種が激減してしまった。現行世代でメインを張れるのはレクサスLSとクラウンくらいだろう。