「ど派手ペイント」「巨大羽根」「飛び跳ねるクルマ」! 最近激減したクルマの「カスタム」5選 (2/2ページ)

美しいカスタムペイントと極低車高がウリのカスタムカーも!

3)ローライダー

 VIPカーも一般人からするとワルっぽい存在だっただろうが、ある意味それと双璧をなしていたのが、シボレー・インパラやカマロ、キャデラック・デビルといったアメ車のカスタマイズ「ローライダー」だ。1940~50年ごろにアメリカの西海岸で生まれたとされる文化で、バブル景気に沸いていた1980年半ばごろに日本にも入ってきた。

 キャンディやミューラル、リーフと呼ばれる凝りに凝ったカスタムペイントに、屋根の低さが際立つローフォルム。足元は小さな口径のワイヤーホイール。そしてサスペンションはハイドロリクスという油圧システムが組み込まれており、エアサスのように自在に車高を変化させられるのみならず、急速に上下することで車体を飛び跳ねさせることも可能だった。

 これをホッピングというのだが、全盛期には広めの駐車場やパーキングエリアに集まってぴょんぴょん跳ねる姿が散見された。オーナーたちの服装も全体的にオーバーサイズでギャングっぽい雰囲気だったため、その文化を知らない人から見るとアウトローな雰囲気もあった。

 だが2000年代も後半に入ると、その姿を見かけることはめっきり少なくなった。このころはトヨタ2代目プリウスが売れ、エコカーに注目が集まった時代。ベースとなるアメ車はたいてい大排気量で燃費も悪く、維持費も高くついた。ローライダーのウリの1つであるカスタムペイントも、普通の塗装に比べると何倍もお金が掛かるということもあり、若者がついていけず衰退していったと思われる。いまでも根強くローライダーのファンは残っているが、比較的ゆとりのある人が大事にしているというケースがほとんどだろう。

 ちなみにローライダーに対抗するアメ車カスタムに「ドンク」がある。発祥はフロリダ州南東部のマイアミとされ、24~30インチクラスの超大口径ホイール履きにハイリフトスタイルが基本。いわばローライダーの真逆なわけだが、このスタイルを作るにはフェンダーは切らないといけないし、サスペンションやアーム類も大加工は避けられない。何より専門的なノウハウが不可欠とあって、日本ではあまり広まらなかった。

4)バニング

「バニング」も元ネタはアメリカ。カリフォルニアのサーファーたちがトラックやバンの室内を快適化するためにやり始めたカスタムだったが、やがて外装にも手が加えられるようになった。そして1970年代ごろに日本に持ち込まれると、突然変異とも思える独創的なバニングたちが次々と誕生した。

 オリジナリティや奇抜さで競うなら、きっと数ある改造車のなかでも最強ランク。巨大かつシャープなエアロパーツは、ボッテリしたワンボックスバンをレーシングカー顔負けの空力フォルムに作り変える。もちろん見た目の話で実際の空力性能の話ではない。

 ルーフスポイラーはたいてい鋭く斜め後ろに跳ね上げられており、この「ツノ」がバニングのトレードマークだった。強風にあおられたら折れそうな予感もするが、かなり分厚いFRPで作られているのでそうそう折れない。ただし重い。そして前後バンパーはデコトラっぽくズドンと突き出した形状になっており、こちらも重量級。

 サイドはオバフェンやブリスターフェンダーでワイド化。往年のケーニッヒベンツやテスタロッサを思わせる意匠もあったりと、バニングがさまざまなジャンルから影響を受けていることが分かる。全盛期のころは前席以外の窓を埋めてしまうクルマが多く、そこにエアブラシで好きな有名人やキャラを描かれることもあった。この辺もデコトラ的。

 内装は広い室内空間を生かし、ホテルのラウンジのように本革で仕立てたり、内張りをモケットやチンチラ張りにして天井からシャンデリアを吊るしてみたり。あるいはウーハー&スピーカーを山ほど積んで「音響系」にカスタムしたり。いずれも純正とはガラリと雰囲気を変えるのがセオリー。

 ベース車はハイエースやキャラバンなどのワンボックスバンで、大多数が100系ハイエースだった。2000年代に入るまではバニングもよく見かけていたが、2001年に8ナンバー取得に関する法規が厳格化すると、一気にその数を減らしていった。

 実はこうしたド派手なバニングは、キャンピングカーなどと同じように8ナンバー登録するのが基本。限度はあれど、大幅なボディサイズの変更があっても合法化できたからだ。それが2001年の規制によって現実的には難しくなり、道を絶たれてしまった。トヨタ200系ハイエース(2004年~)にバニングがいないのはそうした理由がある。

 現在でも2001年の法改正前に8ナンバーを取得したクルマであれば、派手なバニングも製作可能。だがもはやバニングショップは激減。ノウハウを持った作り手もほとんどいない状況だ。

5)その他

 ほかにも消えていったカスタムカーは多い。たとえばトランクルームに外向きのオーディオシステムを組み、大音量で音楽を鳴らすことを目的とした「音響系」「音圧系」のクルマたち。車種は幅広かったが、荷室の広いミニバン・ワゴンが目立っていた。そしてその聖地といえば首都高神奈川5号線の大黒PA。週末の夜になると音響系に限らず、信じられない数の改造車が集まった。

 ハイパワーアンプ&大口径スピーカーでガンガン鳴らし、ネオンでライトアップし、ここはクラブとばかりに踊り狂う若者たち。やがて近隣の苦情を受けて警察の手が入り、PA閉鎖や入場規制、検問などが繰り返し実施され、2000年代後半ごろから徐々に大黒PAに集まるクルマは減っていった。特に音響系はその仕様上、とにかくうるさかったので厳しく締め出された。

 前述のローライダーに近い「ラグジー系」のカスタムカーもほとんど見かけなくなった。ベースは国産車が中心だが、北米でも販売されていた日産・スカイライン、ホンダ・アコード、ホンダ・シビック、トヨタ・ハリアー、トヨタ・アリストなどが人気だった。

 基本的にはローライダーやドンクなどアメリカンなカスタムが踏襲され、カスタムペイントやメッキパーツが多用されていた。車高はローダウンもリフトアップもアリだが、たいていはエアサスかハイドロが組まれており、ホイールはギラギラしたメッキの大口径を装着。もっとも盛り上がっていたのは1990年代半ば~2000年代半ばあたり。

 あとはフォルクスワーゲンタイプⅠ(ビートル)やタイプⅡ(ワーゲンバス)などを模した「キャルルック」、派手なグラフィックにガルウイングを備えた「スポコン」、ハカマのように大きなエアロと大口径マフラーでドレスアップした「VIP系(VIPカーではなくワゴンや軽自動車のカスタム)」、どうやって乗るのというくらいガッツリ車高を上げた1990年代RV車の「ハイリフト」など。

 かつては雑誌の誌面を彩り、街で見かけることも多かった過激なカスタムカーたち。いまの時代にはそぐわないかもしれないが、もうこうしたクルマたちに出会えないかと思うと少し寂しい気もする。


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