確実に売れ行きが伸びているのはコンパクト&ミドルサイズだ
ミニバンと作りが違うとはいえ、SUVだってボディサイズを拡大すれば3列目も広くできるのではないか。たとえば全長5635ミリ、ホイールベースは3345ミリを誇るリンカーン・ナビゲーター(ロングボディ)の3列目はミニバンに遜色ない広さを誇る。
まあそれは極端な例としても、ほかにも輸入車ではメルセデス・ベンツGLS、BMW X7、アウディQ7、ボルボXC90といった車種が3列シートを採用。これらは全長が5メートル前後のフルサイズSUVということで、3列目も比較的広い。ミニバン並みとはいえないまでも、標準的な体型の大人なら乗れるレベルだ。どれも価格は高いが……。
国産SUVでそのあたりとサイズ的に張り合えるのは全長4900ミリのCX-8だけ。エクストレイル・CR-V・アウトランダーは全長4700ミリ以下のミドルサイズなので、シートを3列並べるとどうしても余裕はない。逆にいえばボディをひと回り大きくすれば余裕ができそうだが、冒頭にもお伝えした通り、今売れているSUVはロッキーやRAV4といったコンパクト&ミドルサイズ。わざわざフルサイズを用意するメリットはあるだろうか。
確かにCX-8は2018年に約3万台、2019年は約2万3000台と売れた。今年も「2020年上半期、3列シートSUV販売台数No.1」をうたっているが、そもそもライバルが多くはない。販売台数で見ると2020年10月までの合計は約1万2000台に留まっている。コロナ禍の今、自動車メーカーとしてはリスクを冒してフルサイズSUVに挑んでいくよりも、確実性の高いコンパクト&ミドルSUVに力を注ぐのが自然だ。
ちなみにランクルやプラド、レクサスLXなどはボディサイズは大きいのだが、基本設計がラダーフレームのクロカン四駆ということもあって、見た目の割に室内は広くはない。またレクサスRX450hLは全長5000ミリあり、室内長も2列シートの標準ボディと比べて545ミリ伸びているが、RXはもともと室内がコンパクト(室内長2095ミリ)。約55センチ伸ばしたところでサードシートは窮屈だ。かといってこれ以上ボディを拡大すると使い勝手が落ちる。難しいだろう。
今どきのSUVはお洒落でスタイリッシュで、街でもアウトドアでも映える。地上高が高いから悪路にも強く、万が一の災害時にも頼りになりそうだ。室内はそこそこ広く、荷物もたくさん積める。確かにミニバンの方が広いけど、カッコいいし走りやすいし、普段使いならコレ1台で十分でしょ、ということでSUVは売れている。
購入するユーザーにしてみれば、3列目シートはそのオプションのようなモノ。あったら嬉しいけどマストではない。マストな人はスライドドアのミニバンを選ぶだろう。
メーカーはそうしたニーズに応えて3列目を用意している。ゆうゆうと7人乗れるSUVも作れなくもないだろうが、ボディサイズが大きくなりすぎて日本の道路環境には合わないだろうし、コストも跳ね上がる。スペースの問題でHVやPHEVも作りにくい。現に国産SUVで3列シートを搭載しているHVモデルはレクサスRX450hLしかない。
おそらく今後も、広いサードシートを搭載したフルサイズSUVがガンガン出てくることはない気がする。ただ先日、公式発表ではないものの、クラウンが現行限りで生産終了となり、代わりに新型のSUVが登場するという報道があった。憶測だがその新型車のベースになるのが、トヨタの海外向けSUV・ハイランダー(7/8人乗り)では? という話もある。またそれとは別に、純粋にハイランダーが日本に導入される可能性もゼロではない。
そうなった場合、3列シートSUVの勢力図も変わり、フルサイズが増える可能性もある。またミドルサイズSUVの3列目も、もっと快適性&居住性の改善が進むに違いない。