全店舗全車種取り扱いによる影響も見え始めた
トヨタが全店で全車を扱う体制に移行した目的のひとつに、この“車種の削減”がある。開発者は「姉妹車は基本的に同じクルマだから合理的に開発できるが、それでも複数のデザインを揃えると、部品の点数も増えて開発や製造に要するコストが高まる」という。
そして全店が全車を扱うと、ルーミー、ライズ、ヤリス、アルファード、ハリアーなどは売れ行きを伸ばして登録台数ランキングの上位に入り、逆に売れない車種はますます低迷する。
たとえば2020年10月にアルファードは1万93台を登録して対前年比も約2倍に達したが、ヴェルファイアはわずか1261台まで落ち込んだ。基本的に同じクルマなのに、ヴェルファイアの売れ行きはアルファードの12%で、対前年比も半減している。今後ヴェルファイアは、マイナーチェンジなどのときに廃止される可能性がある。全店が全車を扱うと、車種のリストラが自動的に進むわけだ。
この体制がトヨタにとって幸せな将来をもたらすとは限らない。日産やホンダを見ればわかるとおり、全店/全車扱いになると、軽自動車やコンパクトカーなど販売しやすい割安な車種だけが売れ行きを伸ばすからだ。
ルーミーはコンパクトカーだから好調に売れるが、高価格車のクラウンは、発売後2年半なのに登録台数が先代型のモデル末期と同等まで下がった。クラウンをSUVに変更する破天荒な話まで飛び出している。
SUVは売れ筋カテゴリーだから、上級車種を投入すれば車名に係わらず相応に売れるだろう。しかしそれは、もはやクラウンではない。クラウンの価値は、低重心で高剛性のセダンボディと、それに基づく優れた快適性や走行安定性にあるからだ。クラウンのブランドイメージはSUVに合わないから、クラウンの命名が、新しい上級SUVの売れ行きを妨げる可能性もある。
ルーミーの月販1万台突破と、クラウンをSUVに変更する報道がほぼ同時に生じたことは、まさに今の国内におけるトヨタを象徴している。全店で全車を得ることの明暗が、早くも浮き彫りになってきた。