FF車の「先代プリウス」のドリフトが衝撃の「Creepy Nuts」のMV! CGじゃなく本当に可能かレーシングドライバーが分析 (2/2ページ)

FR化するほどの大改造は施されていないと考えられる

 イエスの部分はテールスライドさせてカウンターステアを当てるというシーン。FFといえども4つのタイヤが地面をグリップして走行している意味では後輪駆動と同じだ。その前後のバランスを意図的に崩し、前輪の旋回力(CFf・フロントコーナリングフォース)>後輪のグリップ力(CFr)となればテールスライドが誘発されカウンターステアを当てる必要が生じる姿勢に持ち込める。

 映像を確認すると、路面に水が撒かれていてミューを調整している。低ミュー路に高速で進入し前輪は乾いた路面を選んでステアリングを切れば車体にヨーモーメントが発生し、スピンモードに入る。それをカウンターステアで抑えていれば、一見ドリフト走行しているように見えることになる。だがこの状態を長く続けることはできず、後輪がグリップを回復すればヨーが収まりスピンモードから回復し安定姿勢になるだろう。

 そもそもプリウスにはスピンモードを自動で回避できる電子制御のVSC(ビークルスタビリティコントロール)が装着されているので、スピンモードに持ち込むにはVSCを解除しなければならない。プリウスのVSCはスイッチで簡単に解除できるものではないので、専門家の協力を得る必要があっただろう。

 また何らかの仕様変更や改造、チューニングが加えられている可能性もある。簡単な方法としては前輪にハイグリップタイヤを履き、後輪にはグリップの低い低燃費タイヤなどを装着することだ。これでCFf>CFrのバランスにすることができ、スピンモードに入りやすい状態にすることができる。さらにサイドブレーキを手動の後輪ブレーキ化し、ブレーキターンの状態からドリフト姿勢に持ち込んだり、後輪のトーをトーアウトに調整するのも有効と言える。

 以前、D1競技に参加していたチーム・オレンジは4WDのランサー・エボリューションのフロントドライブシャフトを外してトランスファーをロックし、後輪駆動に仕上げてドリフト走行可能な後輪駆動のマシンに仕上げていた。映画「ワイルドスピード」でもその技術が採用されていたと思う。

 今回のプリウスには、後輪駆動化するほどの大改造は施されていないだろう。それは後輪がパワーで空転しているような状態が確認できなかったことから推察できる。また360度のドリフトターンは収録されておらず、ドリフト走行区間が90〜180度前後であることからCFf>CFrを可能とする程度の調整で収録していると思われる。

 FFのプリウスで後輪からタイヤスモークを撒き上げるような派手なパワースライドによるドリフト走行は不可能だが、ドリフト走行しているかのようなシーンの撮影は可能ということだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
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趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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