日本車を多く手掛けるのは日本人との共同経営があったからこそだ
イタリアの自動車産業で特徴的なのは、カロッツェリアの存在だろう。馬車の架装をルーツにするのがカロッツェリアで、デザインを中心に生産も含めてボディまわりの作業を引き受けている。イタリア以外にもカロッツェリア的なものは存在していたが、やはりデザインの国であるイタリアのカロッツェリアは、大規模で老舗も多い。
そのひとつがイタルデザインで、ピニンファリーナと並び、イタリアンカロッツェリアの二大巨頭と言っていい。イタルデザイン創業者であり、現在も率いるのが、かの巨匠ジョルジェット・ジウジアーロだ。設立前はベルトーネやギア(カルマンギアなどを手がけたカロッツェリア)に在籍して、いすゞ117クーペなどをデザインしていたが、独立して自らのカロッツェリアとして、イタルデザインを1968年に設立している。
最近ではGT-R 50byイタルデザインが話題になったし、日本車では早い時期で1969年のスズキのキャリイなどを手がけている。その後は初代マーチもイタルデザインだし、フォルクスワーゲン・初代ゴルフやフィアットの初代パンダも同様で、これを見てわかるように直線を基調としたデザインが得意とされる。しかし、流麗なスタイルもデザインしていて、スバルのアルシオーネSVXなどはその例だ。
そのほか、クルマに限らず、極端な言い方をすればなんでもデザインするのが特徴でもある。日本メーカーだと、ニコンの一眼レフは何台も手がけているし、三菱電機のビバーエアコン。ダイワのリールやオカムラのテーブル、さらにはテレビ番組のセットなどもデザインしている。また、イタリアではバルサミコ酢の公式ボトルをデザインしていて、じつはこれに入ったものだけが正式なバルサミコ酢の証とされている。
巨匠にデザインしてもらうのは大変かと思いきや、実際に頼んだことがある人に話しを聞いたことがあるが、「あくまでもビジネスなので、デザインするものに問題なければ、あとは費用を払えばやってくれる」とアッサリした感じだ。
ピニンファリーナも含めて、他のカロッツェリアが業績不振や消滅しているなかで、イタルデザインは現在もフォルクスワーゲン傘下になりながらも、積極的に活動している。この点でも希有な存在と言っていいだろう。
最後に秘話的なトピックスを紹介すると、イタルデザインの前身として1967年にイタルスタイルを設立しているのだが、ジウジアーロとともに共同経営として宮川秀之氏という日本人が参加しているのはあまり知られていない事実だ。イタルデザインになってからも関係は続き、日本車を多く手がけているのも宮川氏の存在があったからこそ。自動車を通じて日伊の友好を深めつつ、現在はトスカーナでワインを作っていたりする。