日本のショーファードリブンという文化を守るために
では、公用車としてセンチュリーを購入する意義はないのかといえば、そこには意味があるといえます。基本的にセンチュリーは国産では唯一の純粋なショーファードリブンとして開発されています。個人所有をしているファンが存在していることを否定するわけではありませんが、メーカーとしては専属の運転手がいて、要人を乗せることを第一に考えたクルマづくりがなされています。
ショーファードリブンというのは単なる高級車ではありません。センチュリーの設計では後席の窓からVIPの方がバランスよく見えるようなデザインとするなど、通常の乗用車とは異なる配慮がされています。実際に座ってみるとわかりますが、後席も快適なだけでなく姿勢よく座りやすいような形状となっています。このように、それなりの作法に則って作られているのがショーファードリブンであり、それはEセグメントのセダンとは異なる自動車文化のひとつといえます。
はっきりいって、こうしたビジネスはスケールが拡大するものではありません。ですから、これまでセンチュリーを購入してきたようなユーザー(大企業、政府、地方自治体など)がセンチュリーの購入を控えるようになると、センチュリーの開発費が回収できなくなります。
トヨタがいかに大企業といえども、クルマづくりはビジネスですから儲からないクルマは消滅する運命にあります。そうなると国産のショーファードリブンが消えてしまう可能性が高まるのです。実際、国産ショーファードリブンとしてはセンチュリーの唯一のライバルであった、日産プレジデントがモデルライフを終えて10年が経っています。センチュリーがビジネスとして成立しなくなり、国産の純粋なショーファードリブンが消えてしまう日が来ないとも限りません。
その意味では、地方自治体など従来ユーザーがセンチュリーを一定の期間で買い替えることは、ある意味では自動車文化を守るための「式年遷宮」的な行為といえるのかもしれません。