制動時には基本的にフロント荷重になる
愛車をカスタマイズするとき、まずはアルミホイールをインチアップするという人は少なくないだろう。とくに細いスポークデザインのアルミホイールにすると、そのすき間からブレーキシステムがまる見えになってしまい、どうにも「リヤのブレーキディスクが小さいのがカッコ悪い」と感じてしまうこともあるのではないでしょうか。
もっともフロントのブレーキディスクが大きい傾向にあるというのは、フロントエンジン車に限った特徴です。RRレイアウトを基本とするポルシェ911の前後ディスク径は基本的に同じですし、国産でもミッドシップレイアウトの軽スポーツ、ホンダS660は前後でブレーキディスク径が同じサイズになっています。
では、そもそもブレーキディスクのサイズというのは何で決まるのでしょうか。大径ブレーキディスクのほうが、テコの原理で効きがいいと思いがちですが、ブレーキの利きはパッドでコントロールできますから大きなディスクにしてバネ下重量を増やすというのはじつは得策ではありません。
フロントのブレーキディスクが大きな根本的な理由は熱容量に関係しています。
同じ厚みであればディスク径が大きいほど熱容量が大きくなります。摩擦式のブレーキというのは熱交換システムによって減速させるものですから、熱容量が大きければ安定して制動力を発揮させることができます。逆に熱容量がいっぱいになると制動力は弱まります。
エンジンの搭載位置にかかわらず制動時には基本的にフロント荷重が増しますので、フロントのほうがブレーキの負担は大きくなります。ですから同じディスク径であってもフロントのほうが厚みを増して熱容量を増やしていることがほとんどですし、ブレーキパッドの面積も大きくなる傾向にあります。
そのためフロントのほうがキャリパーも大きくなりがちです。同じディスク径でもフロントが6ポット、リヤは2ポットのキャリパーを採用しているスポーツカーが多く見受けられるのは、そうした理由からです。
また、コンパクトカーなどでフロントがディスクブレーキ、リヤはドラムブレーキなのも、熱容量とそれをカバーする放熱性というロジックから考えれば理解しやすいでしょう。フロントに対して、リヤブレーキは熱容量の要求性能が少ないのでドラムブレーキでも十分にカバーできるというわけです。
というわけで、まとめるとブレーキング時にはフロント荷重になるため、よほど特殊なクルマでない限り、ほとんどのクルマにおいてブレーキング時の負担はフロントが大きくなります。ブレーキディスクのサイズというのは適切な熱容量から決まる部分が大きく、フロントの負担が大きいということは熱容量を増やす必要があります。ですからフロントのディスクはリヤに比べて大きく厚くなる傾向にありますし、放熱性についても高めていく必要があります。
そのため、リヤのブレーキディスクはフロントより小さくなりがちなのです。さらにフロントがベンチレーテッドディスクなのに、リヤはソリッドディスクであったり、ドラム式ブレーキだったりするのは放熱性の要求性能によるもので、これも熱容量に関わる要素なのです。
ブレーキは熱交換器という基本から考えるとブレーキシステムの前後における違いはロジカルに理解できることでしょう。