違反をしなければ安全は幻想! レーシングドライバーがサーキットより「恐ろしい」と語る「公道運転」で注意していること4つ (2/2ページ)

故障などの際も状況に応じた適切な判断と操作が必要

3)クルマを過信しない

 ブレーキをかければ減速する。ハンドルを切れば曲がる。多くの場合、それは当たり前のように行われている。しかし、クルマは機械だ。いつ故障し、壊れるかわからない。絶対に壊れないという安全が補償された乗り物ではない。

 たとえばタイヤのスローパンクチャーも起こりえるし、ブレーキが利かないこともあり得る。アクセルを戻しても加速が収まらないとか、故障はいつ、どんな状況で起きても不思議ではない。それだけに、どんな故障が起きても冷静に判断し対処する心の余裕が求められる。

 常に用心し、心にも操作にも余裕を持ち、異常を感じたら冷静に対処するのだ。ブレーキが利かなかったらどう対処するか。人のいない、衝突しても安全な場所を視認で探しながらシフトダウンやエンジンブレーキ、エンジンキルスイッチの操作やハンドブレーキ、パーキングブレーキ操作など状況に応じた適切な判断と操作が必要なのだ。

 プロレーサーはレース中、常にこうした事態を想定し、心がけている。レースではブレーキがフェードしたりブレーキラインからオイルが漏れて減速できなかったり、さまざまなトラブルが起こりえる。僕はブレーキディスクが破裂してノーブレーキ状態になったこともあるが、減速区間を大きく取っていたので無事に状況を回避することができた。クルマの極限で競うモータースポーツでは常に何が起こるか予測不能だ。プロレーサーはそうした事態に備え、意識を集中して、可能な限りの対処を試みなければならない。

 また自動車メーカーはそうした事象を分析し、トラブルを回避できるシステムを作り上げていくことができる。メーカーがモータースポーツに参加するのは単に性能を向上させるだけではなく、こうした極限でのテストを行い、トラブルを克服することで性能の安定性、故障の回避など信頼性を高めることができるのだ。だからモータースポーツに参戦していない自動車メーカーのクルマは極限での性能の追求、安全性の確保が十分とは言えない。

4)まわりを信じない

 プロレーサーからみると、一般道をクルマで走るのはサーキットを極限スピードで走るよりも恐ろしい。歩行者や自転車、子供や老人、泥酔者など、さまざまな人が行き来している。走行車両も未保険車であったり、車検切れで未整備車かもしれない。タイヤは古く、溝が摩耗してほとんどない場合もある。対向車や複雑な交差点、速度違反者やルールもマナーも無視するドライバーもいる。

 サーキットは絶対スピードこそ高いものの、路面もガードレールもしっかり管理され、万が一事故が起きても万全の対応ができるようシステムが構築されている。先般、ドイツで開催されたF1アイフェルGP(グランプリ)では、悪天候のためドクターヘリが飛べないことを理由に走行セッションがキャンセルされた。F1ではクラッシュから30秒以内にメディカルチームが事故現場に到着しなければならないというルールがあり、安全対策の見本となるような運営がされている。一般的なドライバーも、F1等モータースポーツをただ観戦するだけでなく、安全にかかわる多くの事を参考にし、役立ててもらいたい。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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