60年以上の歴史を誇る日産を代表するモデルの13代目
日産の長い歴史のなかで、欠かすことのできないモデルがスカイラインだ。歴代最新技術や速さを与えられ、進化を遂げてきた。今回は、2014年にフルモデルチェンジされた現行型である13代目のV37型にスポットを当て、解説していこう。
日産スカイラインの持ち味
スカイラインは、プリンス自動車が生み出したスポーティセダン。レースでも数々の栄光を手にしてきただけあり、エンジンや足まわりといった走りに関する箇所には数多くのこだわりが投入されてきた。歴代モデルはセダンを基本としながらも、スポーツカー顔負けのパワフルな走りを披露する。現行モデルは、日本市場においてセダンしか展開されていない。しかし、走りを意識した専用グレードを用意するあたり、日産はスカイラインをスポーティモデルであるということを認識している現れである。
歴代モデルを振り返っても、1957年に登場した初代も日本アルペンラリーに出場。2代目やハコスカの愛称で親しまれる3代目も、日本グランプリというレースに出場し、勝利を手にしている(3代目はレース用エンジンを市販車用に改良して搭載したGT-Rが参戦)。以降、本格的なモータースポーツ参戦はクーペのみとなるが、同様のパワートレインなどを搭載するセダンもラインアップ。スポーティ=クーペというイメージがあるかもしれないが、スカイラインはセダンが基本であることが、歴代のラインアップにも見て取れる。それがスカイラインのこだわりであり、持ち味と言えるだろう。
日産スカイラインの魅力
魅力その1:DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)
現行型も数多くの最新技術が投入されている。まずひとつ目が、ダイレクトアダプティブステアリングである。この技術は、世界で初めてスカイラインに搭載されたものになる。これは電気信号で制御を行うバイワイヤ技術を用いており、よりドライバーの意思に忠実なステアリング操作が行えるというもの。
専用のコンピューターユニットが3つ装備されており、ステアリング操作を電気信号に置き換え、ステアリングアングルアクチュエーターを作動させてタイヤを操舵させる。これにより、スポーティに走らせたいときは操作に忠実なシャープなハンドリングを楽しめるほか、低速域で荒れた路面を走行していても、路面の凹凸を直接伝えてこないため、ステアリングには不快なキックバックもなく、快適なドライブに貢献してくれる。もちろん、万が一の故障時などに備え、一般的なステアリング操作機構と同様にタイヤと物理的につなげることでステアリング操作が可能になる、バックアップモードも備えている。
魅力その2:パワートレイン
スカイラインには基本的に2種類のエンジンが用意されている。システム最高出力は364PSを発揮する、3.5リッターV6エンジン+モーターの組み合わせ。エンジン単体のスペックは最高出力306PS/最大トルク350N・m、モーター単体のスペックは最高出力68PS/最大トルク290N・mとなる。1800kg台という決して軽くはないボディだが、WLTCモードで12.4km/Lという燃費性能を持っている。単にエコのためのハイブリッドではなく、モーターのアシストによってスカイラインの名に恥じない、気持ちいい加速を味わわせてくれる。もうひとつのV6ツインターボについては後述する。
なお、日産初の本格ハイブリッド用4WDも設定される。GT-Rをはじめスポーツモデルにも採用される電子制御トルクスプリット4WD「アテーサE-TS」を採用。最適な前後トルク配分はもちろん、インバーターの高精度な制御によって、4WD走行時のモーターとエンジン出力を最適化させて悪路はもちろんワインディングなどでも安定した駆動力を確保する。
魅力その3:V6ツインターボエンジン
現行モデルは、ハイブリッドのほかに3リッターV6ツインターボエンジン「VR30DDTT」を用意する。2014年の発売当初はメルセデス・ベンツから提供された2リッター直4ターボが搭載されていたが、2019年のマイナーチェンジで、日産内製の3リッターV6ツインターボへ変更された。最高出力は304PS、最大トルクは400N・mとなる。
レスポンスに優れる小径のタービン&コンプレッサーを採用したターボチャージャーを搭載。吸気側に採用した電動VTCシステム(可変動弁システム)や筒内直接燃料噴射、ピストンの摩擦抵抗を低減する鏡面仕上げシリンダーブロック、日産の国内モデルとしては初となる水冷式インタークーラーなど、最新技術が多数採用した。なお、スポーツグレードである400Rは、このエンジンをベースに出力をアップさせている。
日産スカイラインの基本情報
ボディサイズ
現行モデルは全長4810mm×全幅1820mm×全高1440mm(4WDは1450mm)となる。なお、先代モデルとなるV36型は全長4780mm×全幅1770mm×全高1450mm(4WDは1465mm)。わずかに大きくなっており、どっしりとした印象である。なお、ホイールベースは2850mm、車両重量グレードにより異なるが、ハイブリッドが1820〜1840kg(4WDは1900〜1910kg)、V6ターボが1700〜1730kgとなる。
ボディカラー
ハイブリッド、V6ターボともに共通の6色を展開する。カーマインレッド、ディープオーシャンブルー、ブリリアントホワイトパール、ダークメタルグレー、スーパーブラック、メテオフレークブラックパール。
また、スポーツグレードである400Rには上記6カラーに加え、専用色となる新色のスレートグレーをラインアップに加えた7色が用意される。
グレード構成
ハイブリッド、V6ターボ共通でベースとなるGT、装備を充実させたGT Type P、走りも際立たせたGT Type SPの3グレード展開。これにプラスし、専用エンジンで刺激的な走りを味わえる400Rがラインアップされる。
燃費性能
ハイブリッドの燃費性能は下記の通り。
WLTCモード:12.4<10.8>km/L
WLTC市街地モード:9.0<7.6>km/L
WLTC郊外モード:12.3<11.5>km/L
WLTC高速道路モード:14.9<12.6>km/L
※< >内は4WD
V6ターボの燃費性能は下記の通り。
WLTCモード:10.0<10.0>km/L
WLTC市街地モード:6.2<6.5>km/L
WLTC郊外モード:10.6<10.6>km/L
WLTC高速道路モード:12.9<12.5>km/L
※< >内は400R
日産スカイラインの基本スペック
全車共通
サスペンション(前/後):独立懸架ダブルウイッシュボーン/独立懸架マルチリンク
ブレーキ(前後):ベンチレーテッドディスク
最小回転半径:5.6m(4WDは5.7m)
●ハイブリッド
GT
エンジン:V6DOHC+モーター
エンジン最高出力:306PS/6800rpm
エンジン最大トルク:350N・m/5000rpm
モーター最高出力:68PS
モーター最大トルク:290N・m
WLTCモード燃費:14.4km/L
トランスミッション:7速AT
車両重量:1820kg(4WDは1900kg)
車両本体価格:557万5900円
GT Type P
エンジン:V6DOHC+モーター
エンジン最高出力:306PS/6800rpm
エンジン最大トルク:350N・m/5000rpm
モーター最高出力:68PS
モーター最大トルク:290N・m
WLTCモード燃費:14.4km/L
トランスミッション:7速AT
車両重量:1830kg(4WDは1900kg)
車両本体価格:581万6800円
GT Type SP
エンジン:V6DOHC+モーター
エンジン最高出力:306PS/6800rpm
エンジン最大トルク:350N・m/5000rpm
モーター最高出力:68PS
モーター最大トルク:290N・m
WLTCモード燃費:14.4km/L
トランスミッション:7速AT
車両重量:1840kg(4WDは1910kg)
車両本体価格:616万円
●V6ターボ
GT
エンジン:V6DOHCツインターボ
最高出力:304PS/6400rpm
最大トルク:400N・m/1600-5200rpm
WLTCモード燃費:10.0km/L
トランスミッション:7速AT
車両重量:1700kg
車両本体価格:435万3800円
GT Type P
エンジン:V6DOHCツインターボ
最高出力:304PS/6400rpm
最大トルク:400N・m/1600-5200rpm
WLTCモード燃費:10.0km/L
トランスミッション:7速AT
車両重量:1710kg
車両本体価格:463万8700円
GT Type SP
エンジン:V6DOHCツインターボ
最高出力:304PS/6400rpm
最大トルク:400N・m/1600-5200rpm
WLTCモード燃費:10.0km/L
トランスミッション:7速AT
車両重量:1730kg
車両本体価格:490万8200円
400R
エンジン:V6DOHCツインターボ
最高出力:405PS/6400rpm
最大トルク:475N・m/1600-5200rpm
WLTCモード燃費:10.0km/L
トランスミッション:7速AT
車両重量:1760kg
車両本体価格:562万5400円
日産スカイラインの気になる点
●燃費
スポーティ性能を重視しているといっても、やはり燃費はいいに決まっているだろう。その点、スカイラインはハイブリッド搭載グレードもラインアップしているが、WLTCモードで12.4km/L、従来のJC08モードでも14.4km/Lである。同じく3.5リッターV6+モーターのトヨタ・クラウンはWLTCモード16.0km/L、JC08モード17.8〜18.0km/L(グレードにより異なる)である。ハイブリッドのシステムも異なるので一概には言えないが、もう少し数値がいい結果だとさらに魅力が高まるのではないだろうか。
●基本設計の古さ
現行スカイラインが誕生したのは2014年2月。発売から6年が経過している(本稿執筆時点)。採用しているプラットフォームは、FR車やそれをベースにした4WD車向けに開発したFR-Lプラットフォームである。これは2001年に発売された2世代前のV35型スカイラインから採用されているもの。もちろん、ブラッシュアップされて進化している新世代のもので、Y51型フーガ用を応用している。とはいえ、基本は19年前に誕生したものがベースのため目新しさは少ない。しかし、熟成した実績のあるプラットフォームとも言える。
また、足まわりはフロントが先代V36型を、リヤはY51型と同様のものを採用。ハイブリッドユニットも、Y51型フーガと同様のVQ35HR型エンジン&HM34型モーターの組み合わせ。プラットフォームの大幅刷新は難しいにしても、パワートレインや足まわりはスカイラインならではの新規に専用開発したものを採用していたら、どのようなクルマになっていたのか気になるところではある。
●市街地では持て余してしまうパワー
ハイブリッドはシステム最高出力が364馬力。V6ツインターボは304馬力、400Rにいたっては405馬力という実力を秘めている。ある意味スポーツカー並といえる力強さを秘めているが、街なかなどではほとんど実力のすべてを出し切ることはできないだろう。とはいえ100馬力の実力で、つねに100馬力使って走るのと、300馬力の実力を持っていて、そのうちの100馬力を使って走行するのでは、圧倒的に後者のほうが余裕のある走りを堪能できる。高出力であることには、そういった特性を持たせるためでもあるため、完全に無意味というわけではないのだ。
日産スカイラインのエンジンは圧巻
これまで日産のV6エンジンとして多くのモデルに採用されてきたVQエンジン。その最新型として、新開発されたのがスカイラインに搭載されるVRエンジンだ。先代スカイラインになどに搭載されていたVQ型の3.7リッターNAから、新開発の3リッターツインターボへと進化している。
これまでは北米で展開するインフィニティブランドで販売されていたQ50に搭載されていた。2019年のマイナーチェンジで満を持して日本市場向けのスカイラインにもラインアップされた。3リッターというゆとりある排気量から生み出される最大トルク400N・mは、わずか1600rpmという低回転から5200rpmまで落ち込むことなく発揮される。そのため、ほぼ全域に渡って力強い加速を楽しめるのだ。
この特性は、レスポンスに優れる小径ターボ、電動VTCシステム、燃料噴射制御を高い精度で行う筒内直接燃料噴射、ピストンをスムースに動かすミラーボアコーティングシリンダーブロック、エキゾーストマニホールド一体型シリンダーヘッド、国内初導入の水冷式インタークーラーといった技術から生み出される。
現在、新車で購入できるセダンとしては貴重なターボモデルであり、モーターアシストなしで300馬力オーバーという走りを意識した仕様を搭載するあたり、さすがスカイラインと言うべきだろう。燃費性能は、WLTCモードで10.0km/Lと、エコを強調するモデルとは比較にならないほど悪いかもしれない。しかし、それでも走りを存分に楽しみたい! と願う人にとっては十分に楽しめるエンジンではないだろうか。ベースモデルでも存分に速いが、もっと刺激が欲しいという人には、さらに100馬力上乗せした400Rがオススメだ。
おすすめの日産スカイライン
やはりハイブリッド搭載のGT Type SPではないだろうか。まず、V6ツインターボには設定のない、プロパイロット2.0を採用していること。高速道路での同一車線内において、ナビゲーションを設定したルートを走行中に限り、ハンドルから手を離して走行が可能になるハンズオフ機能を持っている。条件が揃えば、自車よりも遅い前走車を追い越して、元の車線に戻ることを支援してくれることも可能。これは長距離運転において、疲労軽減に大きく貢献してくれる。
また、Type SPであれば、スポーティな走りも楽しめる、自在なシフト操作が可能になるパドルシフトを採用。専用の前後スポーツバンパーや、切削光輝19インチアルミホイールが装着される。エンジンのパワフルさではV6ツインターボには敵わないが、スカイラインらしいスポーティな雰囲気と先進安全技術の両方を同時に味わえる魅力的なグレードである。また、ハイブリッドであるためエコ性能もV6ツインターボに比べれば有利。この点も魅力のひとつと言えるだろう。走りを徹底的に追求するか、先進技術を選ぶか。非常に悩ましい選択となるのがスカイラインらしい。
まとめ
2ドアがない、マニュアルトランスミッションの設定がないなど、従来モデルのファンからすれば、高級路線の現行スカイラインは受け入れられないという人も多いことだろう。しかし、歴代スカイラインはつねに最新技術を投入し、進化を遂げてきたモデル。そういった観点からすれば、現行モデルもプロパイロット2.0といった最先端の安全技術や新開発のV6ツインターボを搭載するなど、十分に魅力的なモデルだ。スカイラインの名をなくすことなく、存続を続ける日産に感謝したい。