レース用エンジンをデチューンして市販車に搭載していたものも!
これまでレーシングドライバーとして、またあるときはモータージャーナリスト、テストドライバーとしても数えきれないくらい多くのクルマを走らせてきた。クルマの性能は年々高まり、スポーツカー分野では最新のものがもっとも高性能であることに疑いの余地はないだろう。
しかし、スポーツカーはまた感性や情緒に問いかけてくる数値には表せない魅力も放つ。長年のプロドライバー人生を振り返り、心に響いた国産のスポーツカーを5台、あえて独断と偏見をもって選んでみた。
大別すると、実際に運転することで感妙を受けたクルマと、子供のころの憧れがそのまま心のなかに染み付いているクルマに分かれる。
物心ついたころからクルマ好きで、国産車の名前やスペックはすべて記憶していたほどだ。少年期になるとクルマが誕生した裏側のストーリーにも惹かれるようになる。
1)三菱ギャランGTO R73X
そんな僕が最初に身震いさせられたのは三菱自動車が1973年に登場させた「ギャランGTO R73X」だった。1970年に中学生となり、自動車専門誌などを読みあさるようになると、同年に登場したトヨタの初代セリカ1600GTの華麗なスタイリングとエンジンスペックに惹かれた。しかし同年登場の三菱ギャランGTOはより官能的でオレンジカラーのダックテールスタイリングに完全に打ちのめされていた。R73Xは、ただでさえカッコいいGTOに、なんとレース用に開発されたR39B型2リッターDOHC4気筒エンジンをデチューンして搭載する、とアナウンスされたからだ。
R39B型エンジンは1971年に生まれて初めて観戦したレースの日本グランプリで、永松邦臣選手が操る三菱ワークスのコルトF2000に搭載され、ヘアピンコーナー脇で観戦していた僕の手の届きそうなほど近くを駆け抜け、ブッチ切りで優勝した。その速さとサウンド、エキゾーストの匂いが脳天を突抜け完全に魅了されたのだ。いまで言えばF1のエンジンをデチューンして市販車に搭載するようなもので、その発想にも興奮したものだ。結局R73Xはプロトタイプが披露されただけで販売されなかったが、今の竹芝で開催されていた東京レーシングカーショーで展示された姿を直に見て、今でもその勇姿が脳裏に焼き付いている。
2)日産フェアレディZ(Z432)
MRXとまったく同じ思想で、レーシングカーのエンジンを搭載したモデルは日産にも存在した。元祖「羊の皮を着た狼」と言われた日産スカイラインGT-R。通称ハコスカだ。ハコスカもまた1971年の日本グランプリで走っていたが、カテゴリーは前座のツーリングカーレース。フォーミュラカーの持つ花形(古い言葉だ)の陰に薄れて見えた。むしろ同じエンジンを搭載し翌1972年、海外ラリー、それも憧れのモンテカルロラリーで3位に入賞したフェアレディZのほうがカッコよく見えていた。
そこで調べると、フェアレディZには「Z432」が存在し、その搭載エンジンはハコスカGT-Rと同じS20型と知ったのだ。S20型は1968年まで日本グランプリを戦った日産R380が搭載していたレース専用エンジンをデチューンし生み出された。そんなモンスターエンジンをスタイリッシュなフェアレディZに載せたのがZ432で、憧れない理由がなかった。
MRXやZ432の登場は子供のころのことだったので、実際に自分が全開で走らせることはできなかったが、心に突き刺さったレジェンドスポーツとして記憶に鮮明に残っている。