セダンやクーペに比べるとミニバンはタイヤへの負担が異なる
一時のミニバンブームはやや沈静化しきているが、いまだに販売面ではつねに上位の台数を確保している。一方でSUV市場が急速に進展しミニバンと匹敵する、あるいはそれ以上のマーケットを構築しているというのが現代のマーケット状況といえるだろう。
ミニバンブームのころに、タイヤメーカーはミニバン専用タイヤなる銘柄のタイヤを開発し、販売面で成功を収めた。そのポジショニングは今も引継がれており、今日ではマーケットの拡大に合わせてSUV専用タイヤも登場し始めているのが現状だ。
ミニバンは低床フロアながらも3列シートを装備し7〜8人乗りを可能とし、また高い全高でルーフ位置を上げ、両側スライドドアを装備して乗降性など実用性能を高めているのが特徴だ。
SUV車はというと最近はクーペスタイルの「クーペSUV」なるジャンルのモデルが拡大しつつあるが、基本的には5人乗りの乗用タイプであり、最低地上高を170〜200mm程度にまで高め、オフロード性能走破性などを高めているような外観に仕立てているのが特徴となっている。
ミニバンは乗車人数も多く、フル乗車であれば大人ひとり当たりの体重を60kgとしても420kg〜480kgとなり、タイヤにかかる負担も相応に大きくなる。この重さに対するキャパシティを向上させることがミニバン用タイヤのテーマだが、ミニバンに普及に伴い操縦特性面をも性能向上させることが求められた。
乗り心地を確保しながら操縦性を高めることは、じつは非常に難しい。相反する技術要求をクリアしなければならないからだ。ミニバンは車体全高が高く、重量も重く重心位置が高いのが問題点だ。ところがサスペンションは乗用タイプのものを流用しているケースが多く、アームの取り付け位置や長さなど、キャビンやエンジンルームの制約から自由度が低い。結果ロールセンターは比較的低い位置にあり、重心との高低差が大きくなる。
これはコーナリング中の重心に横Gがかかるとロールセンターを中心としたロールメーモントがかかる。車体を横転させる方向の力(ロールオーバー)であり、過大になると車体が横転してしまうことになり危険だ。逆にロールセンターを高く設定するとジャッキアップ現象が起こり、旋回内輪が浮き上がる。いずれにしても車高、重心位置の高いクルマは旋回が得意ではないのだ。
しかし、ミニバンの増加で性能競争が激化し要求はどんどん高まる。高速ドライブでの操縦性を高めることがタイヤの側面からも求められるようになるのだ。タイヤメーカーがこうした要望を受け、ミニバン用タイヤを開発する上で着目したのはロールオーバーをいかに抑え、安定した走行姿勢をタイヤ側で支えられるか、ということだった。サスペンションがストロークし、旋回Gが生じて重心位置にロールモーメントが発生すると車体全体がコーナーの外側に傾く方向に力がかかる。その際、タイヤがどのように車体を支えることができるかということが重要になったわけだ。
それまでのタイヤは搭乗乗員の多いミニバンとして乗り心地を向上させるために、タイヤの縦方向のバネレートを柔らかく設定する発想があった。タイヤを撓ませることで路面の凹凸を上手く吸収させ、突き上げショックを車体に伝えないように考えたわけだ。しかしそれはまたコーナリング中に外輪荷重が増えたときにタイヤが大きく撓み、車体の旋回姿勢を悪化させる。ロールオーバーモーメントを支えるどころか増々高めてしまっていたわけだ。