ファンから支持されるには長年販売し続けることも大事
それにしても、なぜ日産はこの時代にフェアレディZをフルモデルチェンジする必要があるのか。そこはブランディングという視点から考えると理解しやすい。おそらく北米を軸に日産ブランドを再構築しようと考えたときに、ポジティブなイメージを抽出すると、初代フェアレディZによって培った「スポーツ」というキーワードが浮かび上がってきたことは想像に難くない。
スポーツイメージのある自動車メーカーというと、モータースポーツ活動を積極的にやっている必要があるように思うかもしれない。だが、市場というのは意外と冷静なもので、いくらレースで結果を残していてもスポーツカーとしてカタチにしていなければスポーツイメージというのは印象に残りづらい。
逆に、スポーツカーを出し続けていれば、たとえモータースポーツ活動を継続していなくても、そのブランドにスポーツイメージは強く残り続ける。そして、フェアレディZは4代目(Z32)から5代目(Z33)のときにわずかに空白はあるものの、イメージとしては50年間継続しているスポーツカーである。その価値は計り知れないほど大きい。
これほどの歴史を持っているスポーツカーというのは意外に少ない。かのポルシェ911にしてもデビューは1964年であり、いまとなってしまえばフェアレディZの1969年とさほど変わらないといえるのだ。もちろん、日産がメインターゲットとしているであろうアメリカにはシボレー・コルベット(初代の誕生は1954年)やフォード・マスタング(同1964年)という伝統的なスポーツカーもあるわけで、半世紀以上という積み重ねがあってこそ同じ土俵で戦えるともいえる。
いずれにしても「継続は力なり」といったところだろうか。フェアレディZを出し続けることは日産のブランディングにおいて、ほかのブランドと差別化する重要なポイントになるのである。それがフェアレディZのフルモデルチェンジという判断につながったと考えるのが妥当だ。
しかし、フェアレディZのフルモデルチェンジはブランドイメージを向上させることが目的で、赤字覚悟なのかといえば、おそらくそんなことはない。前述したようにプラットフォームはキャリーオーバーで、エンジンなどのパワートレインも社内リソースを活用したものだとすれば、採算分岐点は意外に低く抑えることができているだろう。つまり、しっかりと儲かる、いまどきの言葉でいえば持続可能性のあるスポーツカーに仕上がっていると考えられるし、そうであってほしい。新型フェアレディZが赤字に終わるようであれば、日産からスポーツカーの火が消えてしまいかねないからだ。