上級グレードはホンダらしい乗り味だが……
クルマには、グレードによって複数のパワーユニット、タイヤサイズが用意され、駆動方式も2WDと4WDがそろっていることがある。同じクルマとはいえ、その違いによって、絶対的性能はともかく、所有満足度に大きく影響する乗り味に大きな差があったりする。ここでは、最新の大注目車のなかから、タイヤサイズ、駆動方式、パワーユニットで乗り味が激変する3台を紹介したい。ただし、あくまでも個人的な印象であることを承知していただきたい。
1)ホンダHonda e
まずは、都市型コミューターとして開発された、ホンダ初の量産ピュアEV、Honda eである。グレードはシンプルに、上級のアドバンスとベースモデルの2タイプ。パワーユニットをリヤに積み、後輪を駆動するRRレイアウトはもちろん、キュートでコンパクトなエクステリアデザイン、世界初の5つものスクリーンをダッシュボード左右いっぱいに水平配置するワイドビジョンインストルメントパネルを備えたリビング感覚のモダンなインテリアデザイン、サイドカメラミラーシステム、ふんわりとしたかけ心地を持つアコードの骨格を用いたシート、ガラスサンルーフの装備、ホンダ最新の先進運転支援機能=ホンダセンシング、前後50:50の重量配分、足まわりの基本的なセッティングなどは両グレードともに共通だ。
アドバンスとベースモデルの違いは、まずモーターの出力。アドバンスは154馬力、ベースグレードは136馬力となり、1充電走行可能距離もWLTCモードでそれぞれ283km、259kmとなる。ただし、モーターの最大トルクは両グレードともに32.1kg-mである(ここはぜひともお忘れなく)。
装備的にはマルチビューカメラシステム、プレミアムサウンドシステム、パーキングパイロット、AC100V/1500Wコンセント、フロントガラスデアイサーがアドバンス専用装備となる。
ここで注目すべきは、タイヤサイズ、タイヤのキャラクターである。アドバンスは17インチのスポーティーなミシュランパイロットスポーツを組み合わせる。一方、ベースグレードは16インチとなり、トータルバランスと低燃費性能を追求したヨコハマ・ブルーアースA-AE50である。
結果、アドバンスグレードは、ドライブモードがノーマルでも強大なトルクを発揮し、素晴らしく速いのはともかく、乗り心地はスポーティーとは言えないまでも、やや硬めでスポーティーなタッチを示し、粒の荒いアスファルト路面では、スポーツタイヤらしいロードノイズの大きさがちょっと気になる場面もある。それはそれでホンダらしい乗り味とも言えるのだが……。
ところが、16インチタイヤを履くベースグレードに乗り換えると、世界は一変。30kgの車重減もあって、主戦場となる都市部での走りのシーンでは軽快感が高まり、より爽やかな走行感覚が実現されている。
さらに、足まわりのセッティングはアドバンスグレードと共通ながら、ヨコハマ・ブルーアースA50による乗り心地が素晴らしくしっとりマイルドで、上級感、上質感を演出。ロードノイズの小ささもこちらが上手で、静かに快適に走ってほしい”都市型EVコミューターらしさ”という点では、アドバンスグレードより44万円安い価格設定もあって、こちらが適切、買いだと、強く思えるのである。
機能面でベースグレードにはAC100V/1500Wコンセントが、技術的には付けられてもコスト的に見送られたのは(オプションでも現時点では選べない)、電動車として残念だ。
しかし、そもそもAC100V/1500Wコンセントが活躍するアウトドア向きのクルマではなく、災害対応としても、HVやPHVのように、AC100V/1500Wコンセントで電気を消費したとしてもエンジンでリカバリーできるのとは違い、バッテリーを使い切ることができないEVには、あってもなくてもよいと考える。
デジタルルームミラーがないのも、想像以上に見やすくクリアな視界が得られるサイドカメラミラーシステムとは異なる、距離感と画像に違和感を覚えがちな点を考えると、これまたなくてもOKと言いたくなるのだ。
もちろん、ホンダ車は都市型コミューターでもスポーティーな走りを楽しませてくれなくっちゃ!! というなら、アドバンスグレードの選択に反対はしない。