HVモデルはTNGAによって居住性などを犠牲にせず4WD化
一方、HVモデルはトルク・パワーに優れ山岳路でも実用性が高そうだ。HV+e-fourの組み合わせはTNGAプラットフォームの利点を最大限に活かし、居住性や荷室スペースなどを犠牲にすることなく4WD化を可能としている。
HVでは発進が電気モーターになるため、前輪モーターの141N・mとリヤモーターの52N・mの計193N・mのトルクを一瞬にして引き出せる。ガソリンモデルはCVTを介し4800回転までエンジン回転数が高まってようやく145N・mのトルクを発揮するので瞬発力は圧倒的に異なるのだ。
しかし、後輪モーターが最大トルクで走行アシストをするのは時速10kmまで。その後はトルクを絞っていき25km/hでアシストを行わなくなる。いわゆる滑りやすい路面での発進時専用のアシスト制御で、プリウスのE-Fourと似たような仕様となっているのだ。
また走行中は50〜75km/hの範囲までは後輪駆動アシスト制御が入るケースもあるが、ほぼFFのHV状態になる。RAV4のE-Fourシステムでは後輪モーターもV-MAX(最高速度)付近までアシスト可能で高速安定性を高めているが、ヤリスクロスのE-Fourは生活四駆の制御範囲を超えていないのは残念なところだ。E-Fourシステムを搭載することで約80kgも重量が増し、コストもかかるので価格は25万円ほど高くなる。
試乗してみるとエンジンが始動したときのサウンドがほかのモデルと大きく異なっているのがわかる。これは後輪モーターやバッテリー位置の関係でマフラーの取りまわしが専用となっていることから起こるようだが、V6エンジンのような迫力のある音質で好印象だ。
また重量増加はネガティブ要素なはずだが、発進時は前後モータートルクの力強さで感じさせず、高速走行では慣性質量の大きさからコースティング燃費が高まり、実用燃費はむしろ高くなる傾向が見られた。また車体前後の重量配分もよくなり、そもそも4WD仕様はリヤサスペンションがダブルウイッシュボーン化されていて動きがよく、走りの質感が高く感じられるのだ。
じつはヤリスクロスの4WDモデルにはドライブモードの選択スイッチも備わっていて、ガソリンモデルでは「マッド&サンド」「ノーマル」「ロック&ダート」の3モードが、E-Fourでは「スノー」「ノーマル」「トレイル」の3モードが選択できる。これらは対角車輪空転時などでブレーキに個別制御を加えることで緊急脱出性を高めるための装置と言えるが、オフロードで4WDらしい走破性を確保するレベルのものではない。
北米でも中国でも欧州でも、クロスオーバー系SUVの販売をけん引しているのは2輪駆動のFFモデルだ。低コストで流行のSUVに乗れれば市街地地域のユーザーは十分なのだ。だが降雪地域、山岳地に住まうユーザーなら本格的な4WD性能が必須だ。ヤリスクロスの4WDシステムの現状は、市街地で生活するユーザー向けであるということを記しておきたい。