排気騒音規制も高回転エンジンには逆風
スポーツカーといえば、高回転までカーンと回る刺激的なNA(自然吸気)エンジンが基本中の基本……という時代はとうに終わっている。モータースポーツの最高峰といえるF1がマルチシリンダーの高回転NAエンジンからV6ターボになって久しく、国内最高峰といえるスーパーフォーミュラやスーパーGT500も2.0リッター4気筒ターボエンジンを積む時代だ。
市販スポーツカーもほとんどがターボエンジン。国産メーカーのスポーツカーを考えても、日産GT-RやホンダNSXはV6ターボであるし、GRスープラもターボエンジンだ。コンパクト系でいえばスズキ・スイフトスポーツも1.4リッターターボエンジンを積んでいる。3.7リッターV6のNAエンジンを積んでいたフェアレディZも次期型ではV6ツインターボを積むことが発表されている。間もなくフルモデルチェンジが発表されるであろうトヨタ86/スバルBRZのパワーユニット次第では国産メーカーでNAエンジンを積むスポーツカーはマツダ・ロードスターくらいのものになってしまいかねない。
なぜターボエンジンが増えているのか。それは、ダウンサイジング思想に基づいてターボテクノロジーが進化したことが大きく影響している。ダウンサイジングターボと聞くと、燃費重視のエコエンジン向け技術と思うかもしれないが、それに伴ってターボチャージャーのニーズが高まり、ターボチャージャーは進化した。その結果、ターボラグはどんどんなくなり、ターボエンジンのレスポンスは向上した。ストレスなく楽しめるようになったのだ。
また、ダウンサイジングにはレスシリンダーというトレンドも含まれる。たとえばV8エンジンを4気筒ターボにすれば、エンジンをコンパクトにできるので、車体の軽量化にもつながるし、パッケージング的に有利な傾向にある。そうした部分はスポーツカーにおいても同様で、パワーユニットのダウンサイジングは運動性能面でもメリットになる。つまり、スポーツカーらしい運動性能を求めるのにおいてターボエンジンを選ぶというのは正しい判断といえるのだ。
それでもスポーツカーは絶対性能ではなく、走りを味わうものだと考えれば、高回転エンジン特有の伸びやかなフィーリングは欠かせない要素のようにも思える。ただし、ここで大きな壁として立ちはだかるのが騒音規制だ。着々と厳しくなる走行騒音へ規制をクリアするためには高回転を使うようなエンジン(と、それに合わせたギヤ比のトランスミッション)を市販車に搭載するのは極めて難しくなっている。かつては8000rpm以上まで回るエンジンが多かったが、最近ではスポーツカーでもせいぜい6000rpmを超えたあたりで最高出力を発生するようになっているのは、こうした騒音規制に対応するという部分もある。
そうなると回転でパワーを稼ぐキャラクターのエンジンを味わうのは難しくなる。であれば、高レスポンスのターボチャージャーを組み合わせて、低回転域からトルクを感じさせるエンジンにしたほうがドライバーは加速感を楽しみやすい。ここでもターボエンジンを選ぶことが社会性とスポーツカーの走りを両立させるためには有効となってくる。もはや、エキゾーストサウンドやエンジン自体の発するメカニカルノイズを味わうことは難しい時代なのだ。
というわけで、最近のスポーツカーはターボエンジン比率が高くなってきている。さらにいえば、今後はハイブリッドなど電動化テクノロジーと組み合わせるケースも増えてくるだろう。おそらく、国産としてはレクサスの「F」シリーズやLC500が積む、5リッターV8の「2UR-GSE」が最後の大排気量NAエンジンとなるのではないだろうか。