なぜ「FF車のダッシュボードは奥行きが長くFR車は短い」というイメージがあるのか?

ダッシュボードの奥行きはフロントウインドウの角度が影響する

 ひと昔前からFF車はちょっとしたテーブルになるくらい、ダッシュボードの奥行きがあるデザインとなっているモデルが多い印象がある。一方で、同じフロントエンジンでもFR車ではそれほどダッシュボードが広い印象がないという声もある。はたして、そうしたイメージは事実に基づいているのか、だとしたらどのような構造上の違いがあるのだろうか。

 まず結論から言ってしまえば、FFだからダッシュボードが長いとは限らない。逆にいえばFRだからといってダッシュボードが短いとも限らない。

 たとえば、トヨタの最新世代アーキテクチャによるFFセダンの「カムリ」とFRセダンの「クラウン」を比べると、ダッシュボードの奥行きはさほど変わらない印象を受ける。一方で、いま日本でもっとも売れているホンダN-BOXや、同じ軽自動車でいえばスズキ・ハスラーなどのダッシュボードは、FFではあるがさほど長いとは感じないだろう。

 それも当然で、ダッシュボードの長さ(奥行き)を決める最大の要素は、ステアリングの位置からフロントウインドウ下端までの距離によるといえるからだ。つまりAピラーが立っているフォルムのクルマは、ダッシュボードが短くなる傾向が強い。このあたりのデザインには衝突安全性も影響してくるため、衝突エネルギーをいなすためにAピラーを寝かせることがトレンドだった時代のクルマはダッシュボードが長い傾向にある。

 フォルム全体の話でいえば、フロントタイヤの位置やサイズによってドライバーの着座位置は影響を受ける。着座が後方に下がると、おのずとステアリング位置も後ろ気味になる。そうなるとダッシュボードの奥行きが長くなってしまう。また、骨格でいえばエンジンルームとキャビンをわけるダッシュパネル(バルクヘッド)の位置もダッシュボードの奥行きに影響する要素だ。なぜならダッシュパネルの位置はペダルレイアウトに影響するファクターであり、それによって着座位置が決められてしまうからだ。

 さて、記事のタイトルとした「なぜFF車のダッシュボードは奥行きが長くFR車は短い、というイメージがあるのか?」という点については、おそらく駆動方式の違いというよりも年代の差が大きいと思われる。かつてFRが主流だった時代というのは、フロントウインドウが立ち気味で、タイヤハウスも小さかったのでダッシュパネルを前に出すことができ、ダッシュボードの奥行きが短いクルマが多かった。その後、同じ車種でもFFに変化していくなかでダッシュボードが長くなっていったので「FFのダッシュボードは奥行きが深い」という風に感じるようになったのではないだろうか。

 むしろ、旧車のダッシュボードは短く、最近のクルマになるほどダッシュボードが長い傾向にあると考えるべきだろう。実際、エンジン横置きFFの古典ともいえるオールドミニのダッシュボードは驚くほど薄く、奥行きがほとんどない。そして驚くほどタイヤハウスがペダルの横に張り出しいる。衝突安全性も含めた時代の違いが、そこには大きく影響しているのだ。

 というわけで、いまどきのダッシュボードの奥行きは「駆動方式の影響よりもスタイリングによって決まってくる」と考えることが、その理由を理解する近道といえるだろう。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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