タクシー業界の存続の危機がより深刻化してきている
隔日勤務では、“ゴールデンタイム”と呼ばれる深夜割増時間帯(午後10時から午前5時)にどれだけ稼げるかが、そのときの出番の売り上げを左右するとされるぐらい比重が大きくなっている。しかし、現状では多くの企業において接待どころか、社員に対して個人的な夜間の飲み歩きの自粛要請をするところが多い。繁華街には徐々に人が戻ってきているというものの、自腹でロング(長距離)のタクシー利用する人などはビフォアコロナのころから少ないので、いわゆる“社用”の飲み会が本格的に復活しないかぎりは、ゴールデンタイムの売り上げはしばらく期待できないだろう。というか、今後ビフォアコロナの時代のような賑わいが夜の繁華街に戻ることはないのではないかともいわれている。
深夜時間帯が稼げなくなってきているので、早めに車庫に戻るタクシーも増えているので、早朝時間帯になると東京23区内であっても街なかを走るタクシーは激減しており、早朝予約や配車要請が断られるケースも目立ってきている。
路線バスがすでに存在しない、ある地方都市では街なかのタクシー事業者すべてが廃業し、急遽存続会社が作られたというケースもある(新型コロナウイルス感染拡大後)。ただ、事業継続が困難なため廃業しているので、存続会社も早期に事業継続が困難となり、次のステップとしてタクシー事業が“公営化”されるのではないかともいわれてきており、このようなケースが全国に波及するのではないかともいわれている。
問題は“コロナのせいで稼げなくなった”というだけではない。もともと運転士不足や運転士の高齢化など、“働き手不足”も深刻となっており、新型コロナウイルス感染拡大により、全国的に見れば公共輸送機関としてのタクシー業界の存続の危機というものが、より深刻化し、加速化してきているのである。
そして、それは東京などの大都市でもけっして例外ではなくなってきているのである。駅のタクシー乗り場で待っていたり、街なかで手を挙げるなどすれば、気軽にタクシーが利用できるいまの状況は加速度的に崩壊に向かっているのである。WITHコロナの時代となったいまでも、ウエブサイトなどではタクシー運転士の募集を行っている。
不謹慎な話にもなるが、新型コロナウイルスの感染拡大により、リストラや勤務先の倒産及び廃業などで失業する人が多くなってきている。そのような状況下になると、中高年でもすぐに正社員採用され、健康保険や厚生年金に加入できるタクシー運転士という仕事は人材確保の“好機”となるのである。
いまは、まだ感染拡大の様子を見ながら、やや抑えめに事業者は稼働台数を調整しているが、経済活動が回復局面に入っているので、今後はフル稼働をめざすための動きにも見える。保有台数すべてを常時稼働させるのが業界の大原則なのだが、ビフォアコロナのころでも運転士不足で保有するタクシーすべてを稼働することができない状況が続いていた(アベノミクスで好景気だったということもあるが)。バスも状況は同じで、都市部でも運転士不足で“ドル箱”路線ですら減便が当たり前のように行われている。
新政権になりデジタル化が大きく叫ばれている。今回の新型コロナウイルス感染拡大は、いままで世のなかで先送りにしていた問題を浮き彫りにして、一気にそのツケを払わされることとなった。タクシー業界も状況は同じ。ほかの先進国では外国人運転士が当たり前なのに、技能実習生でさえ対象外、ライドシェアは白タクとして排除。確かにこれらが問題解決の正解というわけではないが、少子高齢化はすでに抜本的な改善は不可能と言ってもいいように見えるなかでは、現実的な解決策として遅きに失してはいるが検討しなければならないのではなかろうか。