エボXに実装した「S耐制御」が市販車に広まることを願う
1998年、JTCC(全日本ツーリングカー選手権)にトーヨータイヤが走らせるトランピオ・エクシブで参戦していた僕はトーヨータイヤに直訴。トーヨータイヤは興味を示してくれてJTCCを闘うエクシブで実験する機会が与えられたのだ。だがJTCCのマシンはレギュレーションでABSなど電子制御は皆無だ。そこでメンテナンスを担当していたトリイ・レーシングの鳥居さんに相談するとステアリングに左右別々に利くブレーキレバーを装着してくれるという。
テスト当日、マシンのコクピットに乗るとステアリングホイールの3時45分の位置に、オートバイのハンドルレバーが装着され、右のレバーを握ると右の前輪にブレーキが、左を握ると左前輪にブレーキがかかる仕組みに改造されていたのだ(じつは自転車のハンドルレバーみたいに……と例え話をしたのは僕だったが、まさか本当にそのまま採用されるとは思っていなかった)。
テスト場所は富士スピードウェイだ。コースインしてコーナー毎に内輪側ブレーキを手で掴んで操作する。すると確かにブレーキを掛けた瞬間はクイックにフロントがターンインしステアリングレスポンスが向上した。だがLSD(リミテッド・スリップ・デフ)が装着されたままだったので一瞬の後にはデフがロックし回頭性も失ってしまう。それよりもノンサーボのブレーキをレバーで操作するには握力の負担が大きく過ぎて1周もすれば握力は上がってしまっていた。
効果は体感したが、デフを減速時にフリーとなるワンウェイにし、ブレーキサーボを装着すれば可能性があったが、その実践前にトランピオでのJTCCは終了してしまう。
あれから年月が経ち、ポルシェが911でブレーキングベクタリングを実装。それ以降多くのクルマも内輪ブレーキベクタリングを装備するようになったが、まだ完璧なものは登場していない。
その後、ランエボで2008シーズンまで闘った僕は、エボXに理想的なブレーキ制御となる「S耐制御」を実装させ、確かな可能性を築いた。
残念ながら生産車にフィードバックする前にランエボの開発は中止されてしまったが、僕と4輪電子制御専門のミスター・ランエボこと澤瀬薫博士の頭の中には最後の「S耐制御」の実装と発展の夢が今も埋もれている。いつか、どこかのメーカーでこれが実現することを互いに夢見ているのだ。