制御の特性を使い分けることでより速く扱いやすくなる
三菱のランエボ(ランサー・エボリューション)が電子制御ACD(アクティブセンターデフ)機能を初搭載したとき、その作動強度を任意に選択できるように「TARMAC(舗装路)」「グラベル(砂利道)」「スノー(雪道)」の3パターンをドライバーがスイッチで選択操作するようになっていた。一般的には文字通りの状況に応じて選択することが推奨されていたわけだが、エボ使いとしては制御の特性を理解し使い分けることでより速く、扱いやすく走りながら特性を変えることができたわけだ。
たとえばコーナリングする時は旋回しやすいようにACDの拘束力を弱める「ターマック」を選択。立ち上がり加速では4輪駆動として最高のトラクション(駆動力)を引き出すために、あえて「スノー」を選択する。加速旋回では「グラベル」がマッチするなどコーナーの大きさや速度、コーナー入り口、出口などでスイッチを細かく操作したわけだ。当初エボVIIに初搭載されたときはダッシュボードにスイッチがあって走りながら操作するのが大変だった。そのためエボⅩではステアリングフォークにスイッチを移設し、操作性を高めた経緯がある。
こうしたドライブモードはアクセルの開度や操作速度、4車輪速、ステアリング操作角、操舵角速度、ブレーキ液圧、Gセンサー、ヨーレートセンサーや外気温などセンサー情報をフィードバックしながらECU(コンピューターユニット)にプログラムされた作動原理に従って制御されることになる。つまり、メーカーごとにプログラムは異なり、いかに細かく、実情に即したプログラムが組み込まれているか、ということが重要になっている。
プログラム作成を「キャリブレーション」と呼び、熟練したテストドライバーが世界中のあらゆる路面コンディションで細かく設定し完成させる。それは大変細かく重要な作業だが、時間もコストもかかるので低価格車などはサプライヤーが開発した汎用品をそのまま使っていたりして、モード選択スイッチは付いていてもミスマッチ感が強く実用的ではなかったりする。結局デフォルトのまま使うだけで宝の持ち腐れとなっている車種もあるだろう。
理想的には「AUTO(完全自動)」モードでいかなる走行状況にも最適な制御が行えれば一番良い。たとえばGPSでサーキット内と認知し、車速やGからレーシング走行と認知。路面温度やタイヤ内圧、Gセンサーなどで最適な制御を行える。DCT(デュアルクラッチトランスミッション)やエンジンの出力制御もオートモードで、ドライバーの操作を学習し最適化してドライブモードと統合制御することもできるわけだ。
今後電動化が進めば制御プログラムがますます重要になる。ガソリンエンジン車で組み立てたプログラムでも制御数値は無駄にはならない。こうした事実に気がついているメーカーはしかし、あまり多くないのだ。