臨時駐車場にズラリ「人気新車」が並ぶ光景の謎! 自動車メーカーが「大量在庫」をストックする理由 (2/2ページ)

生産計画サイクルや工場稼働率なども影響している

 さきほど受注生産のほうが工業製品の作り手からすると理想的と書いたが、在庫を持たないことだけが絶対的正義というわけではない。工場は人的にもエネルギー的にも多量のリソースを必要とする。言ってみれば、100台を作れる工場で100台を作るときと10台を作るときで、コストが1/10になるということはない。固定費がかかるため、受注生産とはいいつつ、工場の稼働率は一定以上(80%以上)にキープしておきたい。

 仮に受注で十分な生産量を確保できないとなれば、ある程度見込み生産をするほかなくなる。売れ筋のグレードで、人気カラーで、定番の装備にして……といった具合で見込み生産をして、その情報を販売店と共有するわけだが、そもそも十分な受注が集まっていないようなクルマでは見込み生産分が売れないということもあり得る。そうなると臨時の場所に多量に保管するといったことになってしまうのだ。

 ところで、リードタイムについて触れたが、仮にリードタイムが14日間だとしても、販売店で注文してから2週間後に工場出荷になるというわけではない。生産計画のサイクルもポイントになる。生産計画というのは、どのタイミングで受注した製品を流すのかを決めること。実際には受注→生産計画→生産→出荷という流れになる。生産計画を決めるサイクルが7日間ごとであれば、受注から出荷まで3週間になってしまう。

 そのため話題のクルマのフルモデルチェンジなどでデビュー直後に多くの受注を集めるであろうと予想されているクルマでは、需要に対して十分な供給能力を確保するために、ある程度の見込み生産を行なうこともある。見込みが当たればユーザーも早く愛車が手に入ってウィンウィンとなるが、見込みを外すとメーカーが多量の在庫を抱えてしまうことになる。

 まとめると、自動車というのは受注生産を基本としているが、工場稼働率を上げるためや、新型モデルの初期受注を満たすために見込み生産を行なうことがある。見込み通りに売れれば在庫を抱えずに済むが、見込みを外してしまうと在庫を抱えてしまい、臨時の保管場所などに多量の新車が並ぶという、ある種異様な光景を生み出してしまうのだ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

愛車
スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
趣味
モトブログを作ること
好きな有名人
菅麻貴子(作詞家)

新着情報