ドアハンドルを持たないのは空力面でのメリットもある
3)TVR
さて、ドアを開けるところから非日常が始まるといえば、忘れられないブランドがある。それがイギリスの「TVR」だ。2000年代に経営破綻してからは存在感を失っているが、日本市場においては1990年代後半から経営破綻するまでの10年ほどは、独特なスタイリングで多くのクルマ好きに知られる存在となっていた。そして、TVRの特徴だったのがドアハンドルのないスタイリング。
当時のモデルではドアミラーの下にあるボタンでドアを開けるというパターンが多く、また室内から出るときにも車種ごとによって異なる場所に置かれたボタンを押してドアを開けるという仕組みだった。たとえば、日本でも人気だったタスカン・スピードシックスの場合、1DINオーディオの脇にある小さなスイッチでドアを開けるようになっていた。つまり、コクピットドリルを受けなければ、乗ることもできないばかりか、降りることもできないクルマだったのだ。
4)BMW・Z1
ドアの開け方どころか、あけ方さえ初見ではわからないであろう伝説的モデルがBMW Z1。1989年から1991年の短い期間しか生産されなかった2.5リッターエンジンを積む2シーターオープンカーだ。その流れは現在のZ4につながるものだが、奇をてらいすぎたスタイリングが短命に終わった理由のひとつだろう。そして、ユニークなスタイリングを象徴するのが左右のドアで、いわゆるヒンジによって開くのではなく、サイドシルにドアパネルが格納されることで乗降スペースを生み出すというものだった。
ドア後方のボディパネルに見えるキーシリンダーがスイッチとなっており、ロック解除した状態でキーシリンダーを押し込むとウインドウを収納しながら、ドアがサイドシルに格納されるといった具合。動作自体はスムースで速いので、乗り降りのたびに待ち時間があると感じるほどではないが、ドアを収めるだけの幅があるサイドシルを乗り越える必要があるため、乗降性に優れているとはいいがたいだろう。
最近では、冒頭で紹介したDS3クロスバックのようなドアハンドルを埋め込むように処理するデザインが流行っているが、ドアハンドルを持たないということはスタイリッシュに見せるだけでなく、空力面からもメリットがある。ドアハンドル周りの処理については、まだまだ進化の余地が多いだけに、これからもユニークな提案を見ることができそうだ。