車両姿勢コントロールシステムを活用するのも手
大抵のドライバーは慌ててハンドルを切り増す操作を行うだろう。しかし、多くの場合それは最善策ではないといえる。低速のブラインドコーナーで想定した以上に小さく回り込んでいた場合は切り増し操作も必要だが、緩やかでハイスピードなカーブでは適切とは言えないのだ。
なぜならば、旋回するときクルマはハンドルを切り込むことで前輪にスリップアングルを与え、その度合いによって前輪は旋回力となるグリップ力を引き出している。だがタイヤが引き出せる旋回力には限界があり、タイヤの種別によって多少異なっているが、スリップアングル角の限界値があるのだ。
例えばハンドルを180度切り込むと前輪に10度のスリップアングルが付くとする。そのタイヤのグリップ限界がスリップアングル10度前後に頂点があるならば、それ以上ハンドルを切り増しても旋回力は低下してしまうことになる。つまり、カーブでハンドルを180度切り込んで旋回している時に前輪のグリップが足りずに反対車線にはみ出していったなら、そこからさらにハンドルを切り増すと前輪のグリップ力は逆に減少してしまい、増々大きくはみ出すこととなって危険回避できないことになる。このようなケースではブレーキを掛けて減速し、遠心力を下げつつ前輪にかかる荷重を増やしグリップ力を高める操作が必要だ。
最新のクルマには電子制御の車両姿勢コントロールシステムが装備されているものが多くなった。このシステムはカーブでドライバーの操作からドライバーの意図を読み取りブレーキや速度などを自動的に制御している。ハンドルの切れ角、横G、車輪速度などからコーナリング中の姿勢を適正化しているが、反対車線にはみ出しそうになってドライバーが慌ててハンドルを切り増すとステアリングセンサーが「ドライバーは急いで曲がりたがっている」という意図を読み取り、前輪のグリップ力による旋回力が十分でないと算出されればスロットルを閉じて減速させ、それでも足りなければ前輪内輪にブレーキをかけて減速と旋回力の回復を自動的に行ってくれるのだ。
本来、知識と経験のあるドライバーのノウハウをコンピューターが代わりに行ってくれるというすぐれたシステムである。運転ビギナーや緊急回避に不慣れなドライバーなら積極的にこうしたシステムが搭載されたクルマを選択することで「緊急回避能力」を一定水準に保てるはずだ。こうしたシステムはウエット路や雪道などドライバーが予測、対処しにくい状況でも安定して作動し、頼りになる。
もちろんそれでもタイヤグリップの限界値を高めるものではないので、無謀な運転を可能とするものではもちろんない。そのうえで、いつ何時事故が起こるかもしれないと常に注意し、周囲の状況を鑑みて用心深く運転することに注力することが重要だ。