ゴムの進化で転がり抵抗低減とグリップ力の両立に成功
低燃費タイヤが登場してすでに20年以上になります。今やすっかりお馴染みとなり、実用車では履いてて当たり前の存在となっていますが、そもそも低燃費タイヤとはどのようなタイヤなのでしょうか?
そんな素朴な疑問を解消するべく、1998年にいち早く環境性能を全面に出した「DNAシリーズ」を発売した、低燃費タイヤのパイオニアである横浜ゴムを訪問。タイヤ製品開発本部の栗山正俊さんに、低燃費タイヤの基本について教えてもらったので、その模様をお伝えします。
高野:シンプルな疑問ですが、低燃費タイヤを履くと燃費が良くなるのは何故なのでしょう?
栗山:クルマの燃費を良くする要素はさまざまで、もちろんクルマ自体の性能による部分が大きいのですが、タイヤだけでも燃費を数%も向上させられます。たとえば自転車に乗っているとき、タイヤの空気が抜けてくるとペダルが重くなるのを実感した経験がありますよね?
あるいは、重い荷物を積んだときもタイヤの変形が大きくなって、ペダルが重くなる経験をされた方は多いことでしょう。クルマもそれと同じで、タイヤに荷重がかかって変形すると、抵抗が大きくなり燃費が悪化します。これがいわゆる「転がり抵抗」というもので、低燃費タイヤは、タイヤでもっとも燃費に影響を及ぼす変形を抑えることで転がり抵抗を減らし、燃費を良くしているのです。
高野:転がり抵抗を減らすと、タイヤがスムースに転がって燃費が良くなるというわけですね。転がり抵抗を減らすと、その分だけグリップ力が弱くなるイメージもあります。実際、昔の低燃費タイヤはグリップ感が頼りなく感じ、とくに雨の日は不安が大きかったものでした。しかし、今の低燃費タイヤは雨でも不安なく走れるようになり、技術の進歩を実感します。転がり抵抗の低減と、グリップ力を両立させられるようになった秘訣はどこにあるのでしょう?
栗山:もっとも大きいのはトレッド部分のゴムの進化ですね。タイヤの補強材として使われるカーボンブラックにシリカを配合することによって、二律背反する要素を両立できるようになりました。最初は、水と油のように異なるふたつの素材を混ぜ合わせるのに苦労したものの、配合技術の革新により、均一に効率よく混ぜ合わせられるようになったのです。
高野:トレッドゴム以外では、どのような技術革新がありましたか?
栗山:さまざまな技術を取り込んでいますが、狙った性能をひと言でいうと「接地面の面圧の均一化」があげられます。部材の変更などで剛性を確保し、面圧の均一化をはかってきました。
高野:なるほど。「接地面の面圧の均一化」は、たとえばスポーツタイヤなど、低燃費タイヤ以外のタイヤでも大事な要素だと想像しますが、低燃費タイヤならではの特徴はありますか?
栗山:スポーツタイヤでは、横Gがかかるなど、強い荷重が乗ったときやキャンバーなどがついたときに接地面がどうなるかが重要となるなど、微妙なところが違います。面圧を繊細にコントロールする点においては、どちらも大事な要素となります。
高野:最近は低燃費タイヤでも良くグリップするし、スポーツタイヤでも以前より燃費が良くなっている印象があります。両者は近づきつつあると言えますか?
栗山:確かに近づきつつあるとも言えますが、今でも構造や使う素材、トレッドパターンなどはかなり異なっており、やはり別物です。