販売文句として弱いテレスコピックは装備されにくい
軽自動車やコンパクトカーでハンドルが遠く感じる理由のさらに背景にあるのは、小柄な人が運転しやすいようにと、ほかの登録車などに比べ、運転席のハンドル位置やペダル配置を背の低い人を想定して設計しているからである。
そのうえで、背の高い人のためにテレスコピック機能を装備しないのは、原価低減のためだ。つまり、安上がりにするため装備を省いた結果である。しかしそれによって、運転しにくかったり、運転操作をし損なったりすることを自動車メーカーは放置している。
安全の基本は、正しい運転姿勢をとることが第一歩だが、それを調節する機能を原価低減のため省いた結果が、高齢者などによるペダル踏み間違い事故を誘発している懸念もある。実際、報道などで見る事故車両は、軽自動車やコンパクトカーが多いのではないか。
一方、高齢者によるペダル踏み間違いなどの事故が増えたことに対し、衝突被害軽減ブレーキなど、サポートカーやサポートカーSなどの制度に認定される電子制御装置を軽自動車でも装備する理由は、売りにつながる(宣伝材料になる)からだ。売れる安全ならやるが、売りにつながりにくいテレスコピックは原価が上がるからつけないというのが、いまの日本の自動車メーカー共通の実態である。
では、なぜ、ホンダN-WGNにはテレスコピックが装備されているかといえば、開発責任者が、安全運転の第一歩として人の命を守るために大切だと考え、自ら決断したからである。軽自動車やコンパクトカーといった多くの人々が購入する身近なクルマの安全は、たった一人の技術者の正義にゆだねられており、ほかの多くの技術者や経営者は、競合他車がやっていないからうちもやらないという横並び意識で金勘定を優先しているのである。