APIやILSACはエンジンの進化に合わせて更新される規格
エンジンオイルを選ぶとき、どこに注目しているだろうか? 燃費重視で0W-20のような柔らかいオイルを選ぶという人もいれば、ハードな使い方での安心感につながるよう10W-40など硬めのオイルを選ぶという人もいるだろう。
しかし、エンジンオイルで重要なのは「●W-●●」という表記で示される粘度だけではない。アルファベット2文字のAPI規格や、アルファベットと数字を組み合わせるILSAC規格こそオイル選びでは見逃せない。
APIというのは米国石油協会ほかアメリカの3団体によって定められているもので、Sで始まるのはガソリンエンジン用という意味。それに続くアルファベットが後ろになるほど新しい規格であることを意味する。ILSACは日米の自動車工業会で定めた規格で、API規格の上位互換的な規格と捉えておけばいいだろう。
そのエンジンオイル規格に、2020年5月から新規格が登場している。
その新規格とは、APIでいうとSP規格、ILSACではGF-6規格となる。以前のSN規格・GF-5規格が定められたのは2010年だから、10年ぶりのビッグチェンジということになる。
では、この新しいエンジンオイル規格はどのようなものなのか。新規格制定の背景や性能について、SUNOCOブランドを展開しているオイルメーカー日本サン石油にうかがった。
新規格API:SPとILSAC:GF-6が策定されたのは、ほぼ一年前だという。
「2019年第二四半期にAPI:SP規格の要求値が定められ、2020年5月より施行されることが決まりました。API:SP規格自体は2013年ごろより検討されていましたが、エンジン試験の大幅な変更により、各自動車メーカーによる試験法が確立できませんでした。2019年にようやくすべての要求値が定まり、製品の開発が行われました」。
SP規格の検討が始まったのは2013年というが、その背景には米国市場におけるダウンサイジングターボのムーブメントがあった。だが、ダウンサイジングターボにはLSPIという課題があり、それをエンジンオイルでカバーする必要があったのだ。
ご存知のように、LSPI(Low Speed Pre Ignition/低速異常燃焼)というのは一般にノッキングと呼ばれる現象。ダウンサイジングターボで燃費性能を稼ごうと思うと、ギリギリの燃焼が求められることになり、ノッキングによるエンジン破損への対応は急務だった。
「米国での燃費規制対応はダウンサイジングターボによるものが主流で、実際にLSPIによるピストン・コンロッドの破損が発生していました。しかしながら、タイミングチェーン試験や動弁系摩耗試験の確立が進まず、API:SP規格は延期を繰り返しました。そのため、自動車メーカーからの強い要望によってAPI:SN規格にLSPI防止性能のみを盛り込んだAPI:SN PLUS規格が制定されたのです」。
つまり、API:SPとILSAC:GF-6はLSPIを防ぐ機能を満たしたオイルであることを示す規格というわけだ。さらにタイミングチェーン摩耗にも対応、エンジン性能を長く維持することも考慮されているのだ。