超高速走行を体験することで公道では余裕が生まれる
じつはサーキット走行はつねにそうしたドライビングをしなければならない。速度制限がないので、コーナリングスピードは自分で判断する。サスペンションの動きやタイヤのグリップ力を常に感じ取り、ステアリングやブレーキ、アクセルを適切に操作してなければならない。そうして誰よりも速く走ることで、自分の運転操作が正当化されるのである。
最高速度200km/h以上。平均速度でも100km/hをオーバーする速度域になれば慣性力(イナーシャ)も大きく加わり、ドライバーの負荷も増す。そうした厳しい環境下で運転トレーニングを積めば、一般道ではあらゆる事象に適切に余裕をもって対処できるようになる。
輸入車の高性能モデルなら、富士スピードウェイなど、直線部分で250km/hを超える最高速に達するサーキットもある。そんな超高速域で路面を読み、周囲の車両との関係性を読み取り、タイヤや車両の状態を確認しつつ、次にコーナーへ備える。ただ真っすぐ走っているだけなのに、サーキットではやることが一杯ある。
そうしたサーキットでの高速走行に慣れてしまえば、一般道での法定速度内なら余裕が生まれる。その余裕は景色を見たり音楽を楽しんだりするのではなく、より多くの走行環境周囲の情報に注視するように役立てるべきだ。
2〜3台先を読み、並走車があれば速度差やドライバーの状態を確認し、先々の空から路面を予測する。市街地でなら歩行者や自転車、対向車など注意を払うべき問題が山ほどある。
サーキット走行を繰り返していくと速度感覚が身に付き動態視力も高まる。僕自身が国内のトップフォーミュラで活躍していたころ、動態視力を計測したら7.0以上あると診断され医師に驚かれたことがある。アフリカの原住民などは視力が8.0〜11.0、動態視力は7.0以上あるとその時聞いた。新幹線で通過する駅の看板が余裕で見えたし、高速道路ですれ違う車両の運転手の顔も見えていた。路面に落ちている小石やボルトを見分け、余裕で避けることができていたのだ。
またサーキット走行をすると、いつも乗り馴れている自分のクルマがあまりにもだらしないことに気がつくかもしれない。ブレーキがフェードして利かなくなり、エンジンもオーバーヒートし、タイヤは摩耗して振動を発する。サーキット走行ではクルマの弱点もさらけ出されるのだ。
普段スピードを出さないから必要ないという考えを改め、サーキット走行を経験することでクルマやドライビングのへの思慮を深め、日常の安全運転への一助となることを知ってもらいたい。