消滅する一番の要因は「安全性」
では、それ以来、なぜ前席3人掛けの乗用車が出現しないのか。当時の販売状況の反省ももちろんあるが、現代の安全基準において、3点式シートベルトやエアバッグの装備、サイドインパクト(横方向からの衝突性能)といった安全要件で、前中央席、前席3人掛けはなかなか難しくなったのがおもな要因だろう。
しかも、最大6人と乗りということは、ミニバンとしての機能も果たすことになるが、であれば、1-2列目席スルーができないのが痛い。さらに、今ではフリード、シエンタといった、5ナンバーサイズのコンパクトカーでも、両側スライドドアの装備とともに、大人がしっかり座れる3列目席を大空間のなかに作れるパッケージング技術が構築され、6~7人乗りを無理なく実現できているからでもある。
当時のティーノやエディックスの前席3人掛けを思い出せば、男+女+男、あるいは男+女+女の3人掛けは確かに楽しく、肩を寄せ合い、密着でき、お互いの体温を感じ取れる“嬉しさ”は(大好きな相手が横にいるなら)あったものの、やはり、全幅1.8m程度では、さすがに横方向が狭い。
近所のちょい乗りならともかく、ロングドライブはご免!! という感じだった。しかも中央席に関しては、エアコン吹き出し口は、たしか、あったはずだが、とにかく足もとが狭く、足の置き場に困る……という感じで、大きなセンタートンネルがドーンとあるクルマの後席以上にリラックスできなかった記憶がある。
それからすれば、フリード、シエンタのようなプチバンなら、コンパクトなボディーサイズでも、最大6人(2+2+2)の乗車でも余裕でロングドライブもこなしてくれるから、自動車メーカーとしては、今さらなにも窮屈な前席3人掛けをやる必要はない、といったところだろう。
往年のアメ車のビッグサイズならともかく、そもそも密を避けましょう!! という今の緊急事態下では、残念ながら、“密すぎる!!”前席フル乗車は、乗車拒否されても致し方ないパッケージとも言えたりして。もちろん、カップルふたり乗車で、べったりくっついてドライブを楽しみたいというなら、話は別ですけど。