メディアが騒ぎ立てるほど「絶望的」ではない? コロナ禍におけるタクシー業界のいま (1/2ページ)

従来どおりタクシーを利用する業界も多く大きな痛手ではない

 5月25日に、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、北海道に発出されていた緊急事態宣言が解除され、これで47都道府県すべてにおいて緊急事態宣言が解除された。感染拡大はこれで一定の落ち着きを見せ、道のりは長いものの今後は経済を立て直すことに軸足が置かれていくことになりそうだ。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大による、経済的ダメージの大きさの象徴のようにメディアでしばしば取り上げられるのがタクシー業界。東京隣接県のあるタクシー会社では、ビフォアコロナ比で利益が6割減ったというから確かに相当なもの。テレビニュースなどでインタビューに答えるタクシー乗務員は「売り上げが減った」と異口同音に嘆いているのも納得ができる。

 過去のリーマンショックによる経済不況によるタクシー利用減などと、今回の新型コロナウイルスによる利用減とで根本的に異なる点は、コアなタクシー利用客もタクシーに乗らなくなったことが挙げられる。業界事情通氏によると、「一般的な経済不況下では全体では利用客は減りますが、それでも根強いニーズというものがありました。たとえば地方や東京郊外部などでは、通院に日々利用してもらえるお年寄りなど、景気に左右されずに移動手段としてタクシーを使わざるを得ないというひとがいるのです」。

「さらに私が聞いたところでは、製薬メーカーによる各地域の医師会所属のドクターへの定期的な接待、民間企業の地方自治体への頻繁な接待も景気にはあまり左右されないようです。過去には、中央官庁の出先機関では、タクシー1回の利用で3万円まで経費として認められていたところもあったそうです。
しかも、そこの職員のなかには、領収書を2枚にして1回の乗車で6万円分タクシーを利用したなどという話も聞いたことがあります。ただ、今回の新型コロナウイルスの感染拡大では、『外出自粛』が政府から強く求められているので、前述したような『根強いユーザー』の多くも外出を手控えるようになり、タクシー利用がまさに激減しました」と、いままでとは様相が異なることを語ってくれた。

 東京特別区(23区)および、武三(武蔵野・三鷹市)地区の、2019年3月と2020年3月の平均営収(営業収入)を比較すると、2019年比で2020年3月は約72%となっている。「すでに5月に入ってからは、一時の深刻な時期に比べればやや回復の兆しが見えているようです。4月は全国規模で緊急事態宣言が発出されていたので、飲食店の夜間営業が自粛されていたこともあり、全国的に見ても業界で“ゴールデンタイム”と呼ばれる、深夜割増時間帯(午後10時から午前5時)の営業はほぼ絶望的でした」(事情通氏)。

「しかし、東京都心部などでは多くの事業者で需要が見込めないとして、稼働台数を押さえていたこともあり、昼間に関しては意外なほどまわっていた(利用があった)という話も聞いています」(事情通氏)。

 緊急事態宣言発出中の都内ターミナル駅のタクシー乗り場で待機するタクシーを見ると、大手のタクシー事業者や無線グループの車両をあまり見かけなかった。事情通氏によると、配車アプリに参加している事業者は、このアプリを使った配車要請が多く、幸いしたとのことである。「業界全体では稼働台数を押さえていることもあり、収益状況は極めて悪くなっています。しかし、都心部だけを見れば、緊急事態宣言発出中とはいえ、稼働台数が少ないこともあり、稼働台数平均ベースでの営収がビフォアコロナ時代を上まわることもあったと聞いております」(事情通氏)。

 メディアでは“追い込まれた業界”のように、タクシー業界を煽っているが、現場で乗務員と話をしていると、メディアで煽るほどの悲壮感というものは感じないことが多い。それはタクシードライバーの高齢化が進み、年金を受給しながら乗務している、いわば“セミリタイア”に近い乗務員が多いということもあるようだ。「新型コロナウイルスに感染したくないと、1カ月乗務を休む乗務員もいたと聞いております」(事情通氏)。

 もともと、正社員登用されることが容易な業種なので、厚生年金や健康保険の充実を目当てに乗務員になるひともいる(奥さんが自営していたり、本人がサイドビジネスをしているケースが多い)。ただ、たとえば子どもが就学中の現役子育て家族が、タクシー乗務での給料だけで食べていくためには、現状ではかなり状況は厳しいといわざるをえないだろう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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