将来的にはVRやシミュレーターが実践的な教習を可能にする
僕は2輪に乗っていた経験値があったので、実際の道路に出て戸惑うことも事故を起こすこともなかった。しかし教習所で習った運転しか知らなかったら、危険な場面に遭遇しても気づかないことも多かっただろう。教習所では人は飛び出してこないし、横をすり抜ける自転車やバイクもいない。雨の夜で街灯のない、真っ暗な山道を経験することもできない。それでも道交法さえ守れるならば免許を取得でき走り出せるのだ。
急ブレーキを踏むとどうなるか。ABS(アンチロックブレーキシステム)が作動したらどうなるか。緊急回避するにはどうするのか。
そのとき何を感じ取り、いかに対応するべきかは実体験するまでわからない。スピンするとはどんな状態? ウエットでハイドロプレーンが起こるとは教わるが、それをどう感じ取り、どう対処したらいいのか。アンダーステアやオーバーステアってどういうこと? どのような状態で起こり、どのように感じ取り、どう対応すればいいのか。タイヤがパンクすることもあるだろう。もし急にパンクしたらどんな感じになり、どう対処したらいいのか。パンクしたタイヤの交換方法は? パンク修理キットの使い方は?
もし事故が起こり、自分や同乗者、相手方が怪我をしてしまったときに応急手当をする方法は? 人口呼吸の施し方は、などなど。知識としてだけでなく実際に訓練しておくことが必要ではないだろうか。悪天候、低ミュー路などどんな状況になったら運転を中止すべきか、その判断基準は。
こうした事柄は自動車教習所では教えてくれないし、体験させてもくれない。でも実際に運転するなら、知っておかなくてはならないことばかりだといえる。
1997年にドライビング理論を教える「中谷塾」を開講し、速く走ること、クルマが走る上での運動理論を教え始めた。その過程でここに掲げたような問題点に気付き、実際にこうした事柄を教え、経験しておく場として「くるまの学校」を提案し、三菱自動車の協力を得て開催したことがある。
子どもを膝に抱え極低速で走行していても、急ブレーキをかけると子どもを抱えきれないこと、窓ガラスは足で蹴っても割れないが、車載の緊急脱出用ガラスハンマーを使うと力をかけなくても粉々に砕けさせることができるなど、さまざまなメニューを組み込んで実施したのだ。それはビギナーだけでなく、運転経歴の長いベテランドライバーにも大好評だった。
こうした取り組みは非常に重要で、本来は自動車教習所でも取り入れる事柄なのかもしれないが、限られた時間であまりに多くのカリキュラムを取り入れたら覚えきれないだろう。自動車メーカー各社が、とくにビギナーやペーパードライバー向けにこのようなイベントを積極的に開催してもらいたいと思っている。
しかし今はウイルスの驚異にさらされた不幸な時代だ。コロナ問題が収束するまではVR(バーチャルリアリティ)や、SIM(ドライビングシミュレーター)技術などを駆使して行えるのではないかと考えている。
免許更新時にVRを利用しての事故予測運転技能評価をする機械もある。免許取得初期から道交法に準じた運転だけでなく、実際に起こりうるさまざまな気候、速度、人混みなどの事象を仮想的にでも体験させ対処法まで教えるべきではないかと思う。