フル制動を連発しなければ大衆車のブレーキでも十分
ではスポーツカーのあのでっかいローター、キャリパーは何のためにあるのかというと、安定した制動力を得るためだ。
ブレーキは、クルマの運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギーに変換するシステム。単純な効きだけでいえば、じつはディスクブレーキよりドラムブレーキのほうが良く利くが、熱に強くて安定性が高いのは、ディスクブレーキ。そしてローターが大きければ大きいほど、放熱性は高く、熱容量が大きく、キャリパーも大きくてピストンの数が多いほど、安定した制動力が得られる。
しかし、そんなブレーキは大パワーで車体も重く、サーキットで200km/hオーバーから、何度もフルブレーキをかけるようなクルマにしか必要ない。
プワーといわれる国産の大衆車のブレーキも、100km/hからのフルブレーキ一発で、熱容量がオーバーして利かなくなるようなものはひとつもない。つまり、フルブレーキを何度も連続してかけるような使い方をしない限り、スポーツカーのようなブレーキは不要ということ。
ホイールをインチアップしたりすると、ブレーキが小さくてみすぼらしく見えるかもしれないが、むやみに大径ローター・ビッグキャリパーを入れても、バネ下重量が重たくなって、タイヤの路面追従性が悪くなり、乗り心地や燃費が悪くなるだけ。
ポルシェが誇る、世界最強のブレーキ=PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)は、鋳鉄ローターよりも50%も軽いといわれているが、PCCBのオプション価格は、ブレーキシステムだけで約150万円! そんなブレーキが大衆車に必要だろうか?
「それは極論だけど、一般的な車種でもヨーロッパ車のほうが国産車よりもブレーキが利く」という意見もあるだろう。たしかにブレーキの摩擦係数で比較すると、ヨーロッパ車のほうが国産車よりも0.1ぐらい摩擦係数が高い傾向がある。
ただ、摩擦係数の問題ならパッドを交換すれば解決するし、耐フェード性もパッド交換でかなり向上するので、そうした性能を求める人はスポーツパッドに交換すればいい。
その反面、良く利くパッドというのはローターへの攻撃性も高く、“鳴き”や“ブレーキダスト”も出るし、ローターやパッドの減りも早い。価格的にもスポーツパッドは純正パッドよりも高価なので、一長一短。比較的低速域でのストップ&ゴーが多い日本国内での使い方を考えると、純正ブレーキのバランスは決して悪くはないはずだ。
それでも、もっと強力なストッピングパワーが欲しいなら、まずはタイヤをハイグリップタイヤに履き替えること(溝の有無にかかわらず4~5年以内に必ず交換)。そしてブレーキパッドも残量が半分以下になったら交換。ブレーキフルードも車検毎に交換すること。
こうした基本的なメンテナンスを怠らないことと、いざというとき、しっかりフルブレーキを踏めるスキルを身に着けておくことが、安全運転にはなにより重要だということを覚えておこう。