静かなタイヤは「溝」でわかる! レーシングドライバーが教える「溝の見方」と騒音の仕組み (2/2ページ)

トレッドパターンに静粛性の秘密がある

 タイヤは丸いゴムの物体で転がることで車の走りを支えている。円形の物体が転がるとサイクロイド曲線を描き、円周上の一点に注目すると接地地面に対しハンコをつくように垂直に地面に接地し、垂直に離れて行く。一見なだらかに地面に接するようだが、じつはポンポンと連続して垂直に路面を突き続けているわけだ。実際にはタイヤは金属のような固体ではなく空気の入った弾性変形を伴っているので、接地は点でなく面となっているが、考え方としては垂直接地をしていると見ていい。

 ハンコを突くときに固い机の上で勢いよく突くと「バン」と音がするが、厚紙の上でゆっくり押せば無音だ。こうした理屈を理解したうえでタイヤを考えてみる。机に変わる路面がアスファルトかコンクリートか砂利道かで、音が変わるのは理解できるだろう。自分が日ごろどんな路面を多く走るかを考えることもタイヤ選びで重要だ。

 一般的なアスファルト路で考えるなら路面は固い机のようなもの。そこでタイヤ側も固いと、垂直方向につかれたときにより大きな衝突音が発生する。タイヤの固さは、トレッドゴムの硬度、トレッドパターンのブロック剛性、タイヤを構成するスチールベルトコードなど、表面から見えない部材にもよる。これらをすべて柔らかくソフトなものにしていけば転がるときにノイズは低くなると考えられるが、一方でグリップや操縦安定性、耐摩耗性など走行性能面とのバランスが悪くなってしまう。

 また高速で走行するとタイヤのトレッド表面も高速で地面を叩き続けることになるが、その際にトレッドパターンに添って空気が高速で流れる。トレッドパターンはウエット性能を確保するために不可欠で、レース用のドライ専用スリックタイヤ以外は溝をなくすことはできない。100km/hほどの速度で走っているときには音速に近い速度で空気がトレッドパターン内を流れ、それが接地面で起こっていて、垂直上方に離れる際には大気に解放されて音が発生する。机に吸い付けた吸盤を強引に引き離すと「ポンッ」と音がするようなものだ。

 そこでトレッドデザインを見ると、ある程度空気の流れ方が見えるだろう。トレッドを円周に添って真っすぐに彫られるストレートリブなら、空気がスムースに流れ、ノイズは低そうだ。

 だがタイヤには必ず進行方向を横切るラグパターンも必要だ。ラグパターンは駆動力を伝えるのに効率がよく、オフロード用タイヤにより多く刻まれる。だがそうしたパターンは空気が流れにくくノイズが大きくなる。一般車用としてはラグパターンを刻むときに等間隔になって一定の速度域でノイズが拡大しないように不等ピッチで配置する手法が一般的となった。最新のブリヂストンタイヤではバリアブルピッチという手法も開発されている。

 こうした見方から静粛性の高いタイヤを見出だすには、トレッドパターンがストレートリブ中心でブロックが小さいパターンを持ち、ラグパターンは細く少なく不等ピッチで配され、そして内部構造はしなやかであることが望ましい。ただタイヤはコーナリング時にはスキール音というノイズを発する。これを抑えるにはまったく逆の選択をしなければならない。自分の走行パターン、走行路面など総合的に勘案しなければならないだろう。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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