マニア御用達の知識じゃない! 知れば得するクルマの「荷重移動」って何? (2/2ページ)

クルマの荷重移動を理解しておけば安全運転にもつながる

 ではクルマで考えるとどうか。車重1000kgのクルマで便宜的に前後左右の重量バランスが均等であるとすれば、4つのタイヤそれぞれに250kgfずつの荷重が掛かっていることになる。これは静止荷重といい、クルマのスタティックなバランスを示している。

 重要なのは人が歩くように、クルマは走ることで動的な荷重バランスが変化するということなのだ。たとえば加速させると後方に引っ張られるようにG(重力)が発生する。ブレーキングでは前方に、コーナリングでは横方向にGが発生する。Gが発生することで重心位置に力が加わり前後左右のタイヤにかかる荷重が変化するのだ。

 走行中に強くブレーキを踏み込むと前のめりになる。このとき後輪にかかっていた荷重が前輪に移動している。加速のときは前輪から後輪に、コーナリングでは内輪から外輪へとそれぞれ荷重が移動する。どれくらいの荷重が移動するかはGの大きさや重心の位置、車体のディメンション(寸法)により異なるが、たとえ低速でもGが発生すれば僅かにでも荷重移動は起こっているといえる。

 それを意識し、感じ取り、運転に反映させるわけだ。荷重の変化がどうして重要かというとタイヤの接地荷重そのものになるからだ。タイヤはクルマが路面と接している唯一のパーツ。タイヤがグリップするかしないかはブレーキの利き、トラクション(駆動力)。コーナリング性能など全挙動に影響する。タイヤのグリップが高ければそれぞれの性能が高まる。タイヤのグリップ力とはタイヤと路面の間に発生する摩擦力そのものだ。

 摩擦力は摩擦係数ミュー×荷重で決まる。つまり荷重が増せばグリップ力が高まり、荷重が抜ければグリップ力が低下する。それをドライビングに利用するということなのだ。コーナーでハンドルを切る手前で減速すると前輪への荷重移動が起こり前輪のグリップが増す。そこでステアリングを切り込めば高いグリップ限界を引き出せ、ターンイン区間を速く走れる。

 よく勘違いされがちなのは、ブレーキングに前のめり姿勢になることで荷重移動が起こる、と考えることだ。実際は荷重移動が起こるのでフロントサスペンションにも荷重が増え、スプリングが縮み前のめり姿勢になるのである。ゴーカートのようにフレームだけでサスペンション機能を持たない車両でも減速Gがかかれば前輪荷重は増しているだ。ゴーカートでのトレーニングが効果的なのは、サスペンションがないので荷重移動をダイレクトに感じ取れることもある。

 4輪それぞれの荷重変化を意識し、高まるグリップ、減ずるグリップを感じ取りドライビングに反映できるように心がけてもらいたい。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

新着情報